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「ふ……っ」
腕を口にあて、嗚咽をこらえる。
「ど、どしたの、なに?どっかいたい?」
突然泣き出した伊集院を、原口がおろおろと慰める。どうしていいかわからず、原口は伊集院をそっと抱きしめ背中を優しくぽんぽんとたたきあやした。
「…いたい。痛いんだ、原口…」
しゃくりあげながら、伊集院が言う。
「うん、大丈夫?どこがいたい?保健室…」
「胸が痛い…!痛くて痛くて、死にそうだ…!」
ぎゅう、と自分の心臓のあたりを握りしめ、伊集院が叫んだ。
伊集院の言葉に、原口が目を見開きじっと伊集院を見つめる。
「あ、あんなこと、言うつもりなかった…。まさか、お前が聞いてるなんて思わなくて、」
「うん、しょうがないよ。俺、平凡だし生徒会長は間違ってない…」
「生徒会長って呼ぶな!」
原口が伊集院をそう呼んだ瞬間、伊集院は激しく怒る。伊集院の鬼気迫る様子に、原口はたじたじとする。
「そんな、そんな他人行儀な呼び方をするな!まえ、前みたいに親しく、呼んでくれ!」
「親しくって、…あんたって呼ばれたいの?」
「そ、それでもいい。お、おまえに、呼んでもらえるなら。生徒会長って、その呼び方だけは嫌だ…!」
しゃくりあげながら必死に訴える伊集院に、原口はどうしていいかわからなかった。
あの廊下で聞いた話が本当なら、伊集院は俺をからかうつもりだったはず。だが、当の本人は他人行儀に扱うのはよせと怒る。
原口は眉を寄せ伊集院を見つめた。
「教室で、みんなに、お前との関係を聞かれたとき、どうしようかと思った。俺がお前と仲がいいなんて思われたらって焦ったと自分で思ってた。」
伊集院の話を、無言で聞く。
「でも、違った…!ほ、本当は、俺以外の奴に、お前のことを知られたくなかったんだ…!
優しく笑う、話す、そんなお前を他の奴に見られたくなかった…!」
やっと。やっと、わかった。自分の本当の気持ち。
「ご、めん。ごめんなさい。あんなこと言って、ごめんなさい。お願いだから、嫌いにならないで…!
原口が、好きだから、嫌いにならないで…!」
伊集院は、しゃくりあげながら必死に叫んだ。
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