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11

「自分が噂で聞いてた高原ヤマトはそこにはいなかった。いたのは、幸せそうに微笑みながら一生懸命口いっぱいにケーキを頬張る高原ヤマト。俺はお前に釘付けになった。それから、ケーキを食べ終えるまでずっとお前から目が離せなくなった。
俺のみた高原ヤマトと、何とか接点を持ちたくて毎日お前に会えるよう街をうろついた。お前を見かけた時は必ず声をかけた。
いつも女どもが邪魔してきたから何なんだと思ってたら、ある日鞠って女が俺に声を掛けてきた。
公園に連れて行かれて、釘を刺された。
『ヤマトはあんな風だけど、とてもナイーブで優しい乙女ちゃんなんだから。勘違いで乙女ちゃんを傷つけようとするのはやめて』
ってな。」


知らなかった。鞠ちゃんが、そんなこと言いに行ってたなんて。あんなか弱い女の子が、一人で僕のために。
僕はじんとして、涙がこぼれそうだった。


「だから俺は、正直に自分の気持ちを話したんだ。俺は高原に喧嘩を売ろうとしてるわけじゃない。…好きだから、近付きたいんだ。ってな。そしたら、余計怒られたんだけど。『乙女ちゃんに手を出すなー!』って。」


山下さんの再度の告白に、またまた混乱する。
…山下さんは、鞠ちゃんが好きなんじゃなかったの?


「だから俺は頭を下げた。どうしても、お前がほしかったから。なんとか、認めてもらいたくて。そしたら、お前がよく公園でひなたぼっこしながらうとうとしてるって教えてくれた。
『少しずつ乙女ちゃんに近づいて、ゆっくり心を開いてあげるなら仲良くなるのは許してあげる。でも、絶対に手はだすな!』って言われた。
俺はあいつと連絡先を交換して、お前が公園に行ったら連絡をもらうようにしてた。
でも、どうしたらいいかわからなくて…、ふと思いついたのがケーキだったんだ。」


山下さんの話に目を見開く。まさか。まさか、あのケーキ…!


「初めてケーキ屋に行ったあの日、お前帰りに『いちごのモンブランが食べたかった』って言ってただろ?だから急いでケーキ屋に行って、眠るお前の横にそっと置いた。」


山下さん、だったんだ…。嬉しくて嬉しくて、胸がだんだんと高鳴る。


「毎回、お前が嬉しそうにケーキを持って帰るのがかわいくて。ある日、クッキーが置いてあってびっくりした。
メモを読んで、俺はその時もう我慢できなくなって。こっそり眠るお前にキスをした。」


あ、あれ、あれ、やっぱりキスだったんだ!
途端に顔が真っ赤になる。


「次の日、一人で歩いているお前を見つけてチャンスだと思った。あのやかましい女がいない今なら、目の前でお前を見ることができる。ケーキ屋に急ぐお前を必死に追いかけて、無理やり席につかせた。
…ケーキを食べるお前は、間近で見るとやっぱりかわいくて。クリームを拭ってやりながら、お前とキスしてるつもりで指を舐めた。我慢できなくなって告白しようとしたら邪魔が入ったがな。
その話、あいつにしたんだろう?その夜、めちゃくちゃ怒鳴られたよ。電話で。」

ははっ、と笑う山下さんに、僕は真っ赤になって俯いた。鞠ちゃん、だからあんなに怒ってたのか。全部知ってたから。全部、全部。山下さんが、僕のためにしたことだった。
山下さんの好きなのは、鞠ちゃんじゃなかった。鞠ちゃんの好きなのは、山下さんじゃなかった。


ほんとに?信じていいの?


「…今日、久しぶりにお前が公園に向かったって聞いて急いで行ったら、ちょうど赤虎の奴らに拉致されてるところで。必死に追いかけて、ここに来たんだ。
なんとか助けたくて。お前に手を出してたら全員ぶっ殺してやるつもりだったけど、逆に助けられちまったな。
…お前、喧嘩なんか大嫌いなのに、すまねえ。そんなお前に人を殴らせちまうなんて、俺、かっこわる…」


山下さんが、俯いて片手で目を覆う。
山下さん、かっこわるくなんかないよ。必死に僕を助けようとしてくれたじゃない。
僕のために、いつもいつもケーキを買ってくれたじゃない。


僕はたまらなくなって、山下さんに抱きついた。

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