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5

あれから鞠ちゃんへのお見舞いを買って帰った僕は、鞠ちゃんに今日山下さんにケーキをご馳走してもらったことを話した。
鞠ちゃんは、

「ふーん。」

って言っただけだった。でも、ついついあの口についたクリームの話をしちゃうと、鞠ちゃんは途端に

「あんにゃろう!簡単に手ぇ出すなっつったのに!だから男は狼なのよ!あたしのかわいい乙女ちゃんを汚しやがって!」

と、枕を何度も何度もバシバシと床に叩きつけながら怒ってた。


…確かに山下さんは狼だよね、銀狼って言ってたし。でも、汚したって、それは僕の方だよね。山下さんの指、クリームついちゃったんだし。


きょとんとしてると鞠ちゃんが僕の肩をがしりと掴んだ。


「いい?乙女ちゃん!山下って男は狼なんだから!いい人だなあなんてドキドキしちゃだめよ!わかった?」
「は、はい…」


鞠ちゃんの家から帰ってきた僕はぬいぐるみを抱きながらゴロゴロとベッドを転がっていた。
考えるのは山下さんのこと。


ごめんなさい、鞠ちゃん。あの時は鞠ちゃんのあまりの迫力に思わず頷いちゃったけど、僕ほんとはもうずっとドキドキしてる。


かっこいい山下さん。優しい山下さん。山下さんの事を考えると胸がぎゅっと苦しくなって何だか甘酸っぱい気持ちになる。


「じん…さん」


ぶわっ!


下の名前を呟いてみると、一気に顔が熱くなった。心臓がばくばくと早くなる。
ぬいぐるみをぎゅうぎゅう抱きしめて、うつ伏せになって顔をうずめて足をばたばたさせた。


鞠ちゃんちの少女漫画で読んだことある。


これって、恋かも。


自覚したとたん、余計に胸がきゅんきゅんした。

『山下って男は狼なんだから!』


ふいに、鞠ちゃんの言葉を思い出す。…あれ。鞠ちゃん、山下さんと知り合いなのかな?

「そういえば…」

山下さんも、今日僕に会ったとき、
『あのやかましい女はどうした』
と聞いてきた。思い返してみると、どちらもなんだか親しい口振りだった。
…もしか、して。


僕はその日なかなか眠れなかった。

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