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「なんなんすか!お互い気持ちがやっと通じ合って、いいとこだったのに!大体、伊藤さんのせいでヤバかったっての俺忘れてないんすからね!」
キスを止められ、ぷりぷりと幹司が怒る。そうだ、こいつがいたのすっかり忘れてた!
連矢は慌てて幹司を振り払う。
「れ、連矢さん!なんで!?」
「お、俺だって忘れてないんだからな!さっき調子いいこと言ってたけど、お前あの時かわいい男の子と腕を組んで歩いてたじゃないか!バイトなんていって、ほ、ほんとは浮気なんだろ?」
指輪は確かに嬉しいけど。肝心な所を聞いてない。
「だぁー!伊藤さんひどいっす!マジでなんも言ってないじゃないっすか!」
幹司は頭をかきむしり、その場にがくりとしゃがみこんだ。
伊藤は知ってるのか!もしかして、だから俺を買い物に連れ出した?
じろりと怪訝な目を伊藤に向ける。
「あれは俺のいとこなんだよね。幹司のバイトってのは、俺のいとこの家庭教師だったんだよ。あの日、いとこに連絡して幹司を連れ出すように言ってたんだよね」
「なんでそんなこと!わざと会うようにセッティングしてたってことか!」
伊藤は連矢の怒りにも軽く肩をすくめる。
「それくらいしないとお前自分の気持ち言わないだろ?言ったじゃん、俺は佐藤がかわいそうでかわいそうで仕方なかったって。あのね、相手のためを思うなら素直に自分の気持ちを伝えてやることの方が大事よ?お前はいつも自分を疑って佐藤の事も信じないけど。大事なのは、信じる力。アンダスタン?」
伊藤に言われ、ぐっとだまる。
…確かに。俺は自分の不安だけで幹司の気持ちをないがしろにしてたのかもしれない。
「大丈夫っすよ、連矢さん!確かに、ほんとはちょっとだけ不安になったりしたけど…
連矢さんが言えない分、俺が言いますから!連矢さん大好きだって!」
言いながらまた俺を抱きしめる。ああ、幹司。お前は本当に太陽のようだ。
お前に照らされて俺はいつも温かくなる。
だから。だから、俺も少しだけ。
「…いやだ」
「え?」
「…たとえ俺のためでも、ほ、ほかの奴と腕くんだりするの嫌だ。…お前の腕は、俺しか組んじゃいけないんだからな。」
真っ赤になってそう言った俺に、幹司が目を見開いて口を抑える。
何も言わない幹司に不安になって、ちらりと顔を見上げた。
―――そこには、顔を真っ赤にした幹司がいた。
「もー…、参りました」
真っ赤な顔のまま、幹司ががくりと頭を下げ俺に抱きついた。
「はいはい、ツンデレごちそうさまー」
そんな俺たちを見て、伊藤がしっしっと手を払う。
大事なのは信じる力。悔しいけど、伊藤の言うとおり。今回俺たちは伊藤に踊らされたけど、大事なことも気付かせてくれた。
…いい友達持ったよ、ほんと。
俺は幹司に抱きついて、伊藤にあっかんべーと舌をだしてやった。
end
→あとがき
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