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抱きしめられながら、僕は今ここで行われていたやりとりを理解するのに必死だった。
柳沢くんはなんて言った?
誰が誰の唯一無二だって?
混乱して震える僕を、柳沢は優しく抱きしめる。
「山下…、大丈夫か?…いや、そんなわけないな。中沢のやつ…!気持ち悪いだろう?すぐ帰って綺麗にしような。俺が洗ってやるから」
背中を撫でながら額にキスを繰り返す。
これは誰?
「とにかく、服着ようか。ん?」
優しく、大丈夫だと笑う柳沢くんに、涙がぽろぽろと零れ落ちる。
「…っ、やな、ぎ、さわく…、」
「大丈夫、もう大丈夫だ。怖かったな。遅くなってごめんな。ギリギリだったけど間に合ってよかった。ほんとによかった…」
助けてくれた。僕は、柳沢くんのものでいられた。
本当にギリギリだったさっきを思い出して震えと涙が止まらなかった。
「あり、がと…助けて、くれて、ありがとう…、ぼく、ぼく…」
泣きながらお礼を言う僕の口をそっと柳沢くんが口づけで塞いだ。
触れるだけのキス。
少しして離れて、僕を見つめる。
「…山下…ごめんな…」
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