×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




10

「はーるひこおおお!」
「うるさい」

中庭で本を読んでいると、叫びながら駆けつけてきた千里に冷たい視線を投げかけて一蹴する。そんな晴彦に『いやん!ツンデレ!』なんて頬に手を当てながらくねくねと体を捩る千里をうんざりとして眺め、また本に視線を戻した。

「ねね、知ってた?映画部の部長、実は腐男子なんだって!こないだ初めて知って意気投合しちゃってさ、思わず晴彦と会長のお話作ってくれってお願いしちゃった〜!」
「貴様!」

千里の口から出た言葉にいつになく大げさに反応してがばりと向き直り、持っていた本でスパン!と頭を叩くと千里は小さく叫んで頭を押さえてうずくまった。

「だあってえ〜!こんな萌え萌え俺様、なかなかいないよ〜!晴彦もそう思ってんでしょ〜!」
「だからと言って他人に話すバカがどこにいる!」
「ここにいますう。うひひ。萌え萌え俺様っての否定しないんだ、晴彦ちゃん会長にべた惚れ〜って、いてえ!」

にしし、と笑ってからかうともう一度本で叩かれて転げまわる。その際にちらりと見た晴彦の顔が真っ赤に染まっていることに、千里はとても満足げだ。

こんな風に感情を出してくれるようになったのも会長のおかげだ。


四天王寺は、晴彦の部屋で言い争いをした翌日、単身千里を訪ねていた。そこで、千里に一冊の本を突き付けて、こういった。

『この本の内容やどこがいいのかなどを、わかりやすく説明しろ』

それは、晴彦の部屋から持ち出した例のBL小説だった。ぶすっとしながら千里にそういう四天王寺の真意がわからず、怪訝な顔をすると四天王寺は苦い顔をしながら次の言葉を口にした。

『…あいつが、この本に出てくる京也とか言うやつが好きだと言った。この俺をそいつの代わりにしているとも。あいつが望むのはこの世界なのだと。読んでみたが、俺には何が何だかわからん。だが、あいつをこの世界に閉じ込めてはおきたくない。閉じ込めるなら、俺の世界に閉じ込めてやりたい。だから、教えろ。どうすればあいつが望む世界が作れるのかを。お前ならわかるだろうが』


まっすぐに、真剣に頼み込む四天王寺に、千里は問いかけた。なぜそこまでして晴彦に執着するのか、晴彦のためにそうするのか。以前に晴彦を助けてやってくれと言ったのは自分だが、それは四天王寺の気持ちがあってこその前提。

四天王寺が自分が晴彦に対して持っている感情に気付かないままに、晴彦に手を差し伸べて欲しくはなかった。

『…そうしてやってもいいとおもうほど、俺にとってあいつは特別だ。何をおいても手に入れたい。あいつを手にするのは俺以外許さねえ。そう思えるくらいただ一人の愛する存在だからだ。』

千里は、その場で思わず泣いてしまった。
四天王寺が、晴彦を特別視していることには気が付いていたが、ここまで思ってくれているとは思わなかったから。

俺の為じゃないと言いながら、俺の幸せを願ってくれた晴彦。晴彦が幸せになれるなら、そうすることができるのは、それはきっとこの人しかいない。
そう確信した。

晴彦に『しばらく会えない』とメールをした、あの二週間の間、千里は四天王寺に京也様の事と、BLゲームの事を教えていたのだ。

「晴彦!」

二人でバカなやり取りをしている所へ、四天王寺が生徒会の仕事が終わったのか晴彦の名を呼びながら駆けてきた。何だかひどく不機嫌そうだ。だが当の晴彦は至って顔色を変えたりもせずに冷ややかに四天王寺を見て軽く手を上げる。
晴彦の傍まで来た四天王寺は、晴彦の隣に座り込んでじろりと晴彦を睨みつけた。

「てめえ、どういうことだ。もうあの京也様とか言うやつに関する物は捨てるし読んだりもしねえって言ったろうが。なんでまた小説やグッズなんかが部屋に転がってんだよ」
「仕方ないだろう。あのシリーズは人気なんだ。新しいシーズンのシナリオをと依頼が来たんだよ。その為に送られてきた資料やグッズなんだ、捨てられるわけないだろう」

そう。晴彦が手掛けているあのゲームは、BLでありながら絶大な人気を誇っているのだ。琢磨との決別の際に、晴彦は確かに一度集めていた手元にある全てのグッズを売った。
そして、もう二度と京也を琢磨として求めない、と心に決めていたのだが、ゲーム自体の人気が高く続編を望まれれば作らないわけにはいかない。
インスピレーションを高めるために、グッズや小説などを手に取らなければならず部屋に置いてあったのを四天王寺が見つけたらしい。

「冗談じゃねえぞ!俺たちの部屋に入れねえっつったろうが!おい、クソ腐男子!てめえの部屋に置いとけ!」
「クソ腐男子って何!会長横暴!」

何を言っても結局晴彦の甘い四天王寺が八つ当たりのように千里に絡む。ぎゃんぎゃんと二人で言いあうのも最近では見慣れた光景だ。

「わかったよ、四天王寺。千里、すまんがお前の部屋に置かせてくれ。高見沢には俺から伝えておく、男を一人千里に面倒を見てもらうからとな」
「やめて!わざと高見沢を煽ろうとするのやめて!」

先ほどの仕返し、とばかりにそう言うと、今度は千里が真っ赤になってあわあわと慌てだす。そんな千里に思わず笑みを向けると、四天王寺がぐい、と晴彦の肩を引いて自分の胸にぽすんと抱き込んだ。

「お前も覚悟しろよ。この俺にわざとやきもちを焼かせたんだからな。それから、望み通り煽られてやったんだ、今日の夜は眠れると思うなよ」
「…煽った記憶などはないんだがな」
「ああそうかよ。じゃあ愛してるって遠回しな告白か。お前は本当に可愛いな」

ちゅ、と額に口づけられて、真っ赤になった晴彦を千里が携帯で取ろうとするのを思い切り蹴飛ばす。


今回のシリーズに、新たに追加された、京也に振られるという特殊な裏ステージがある。そこに出てくる、振られた主人公を全力で落とす新たな攻めキャラ。

そのキャラの人形だけ、自分のベッドに置いていた。

四天王寺は、目ざとくそれを見つけたのだろう。


裏ステージの名は、『俺様の愛を知れ』


「四天王寺」
「うん?」

ふと顔を上げ、覗き込んできた四天王寺に自らの唇を軽く押しつける。
こんな風に誰かに愛を伝えることなど、もう一生ないと思っていた。四天王寺に出会わなければ、あの琢磨からのメッセージを読んだとしても自分は一生琢磨を待ち続けていただろう。

知ることのない愛を教えてくれた、愛しい恋人を抱きしめる。

「俺みたいなやつにそんなことを言うのはお前だけだな」
「当たり前だ。他のやつになんか言わせてたまるか。お前には俺の愛だけでいいだろうが。他の男の愛なんざ邪魔なだけだ。」


お前は、俺の愛だけ知ればいい。
この先、ずっと変わらない、永遠の愛を。

作られた愛しか知らない俺様腐男子は、今初めて本当の愛を知る。






[ 81/81 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]

top