×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




9

大抵の連絡は携帯があるので直接電話がかかってくるはず。不思議に思いながら新着メールを開けて、冒頭の一文を読んではっと息をのんだ。

『琢磨の友人から、あなたが高校に入学したときにこのパソコンに、あなた宛てにメールが来ていたみたい。普段これを触っていたのは琢磨だったから気付くのが遅くなって今になりました、ごめんなさい。添付ファイルがあなた宛てだからそのままファイルを転送します。中は見てないので自分で確認してください』

――――琢磨から。

震える指で、添付ファイルをクリックする。開けるとそれは、ワードで作成された文章だった。


『よう、晴彦。元気か?このファイルをお前が読んでるってことは俺ァもうお前の傍にはいないはずだな。
無事に帰ってきていたら削除されていたはずのこれがお前の目に届いていることは残念でならねえ。まあ、これから俺がここに書くことは俺なりのお前への懺悔だ。適当に流してくれ。

お前はガキンころから俺の後ばっかくっついてたな。ばかみてえに『琢磨さん琢磨さん』ってにこにこ追いかけてくるお前がかわいかった。まあ、そう仕込んだのは他でもないこの俺だがな。

俺がカメラマンになって世界中を飛び回っているときも、いい子で俺を待っているように躾けたのも俺だ。お前が待っていると思うと俺はいつだって頑張れた。正直に言おう。俺は自分のためにお前にそう教え込んだ。他でもない可愛いおまえに、俺をずっと待っていて家で『おかえり』と出迎えて欲しかったからだ。
お前に向けていた感情が、甥っ子としてなのか一人の男としてかはわからねえ。だが、俺にとっておまえは特別だった。
その言葉を口にせず、曖昧に濁したままお前が俺から離れられない様にしていたのは俺のエゴだ。軽蔑してくれても構わねえ。お前にとっての特別でいるのは心地よすぎた。


そのせいでお前が他のやつに目がいかないようになったとしても、俺は一生お前を自分の傍に置くつもりだった。いつも言っていたな?『大きくなったら琢磨さんと一緒に暮らす』って。あれ、本気だったんだぜ?俺はお前と一緒に暮らして、お前に俺たちの家で俺の帰りを待っててもらいたかった。


今回の仕事は、少しやべえかもってやな予感はしてた。だから、このファイルを残した。無事に帰ってきたら、自分の手で削除するつもりだった。そんで、お前が高校生になったらお前に言うつもりだったんだ。『一生俺をいい子で待ってな?毎日ご褒美やるからよ』ってな。そんで、もし万が一にも、俺がこれを削除できなかったとしたら…お前が高校生になると同時に、自宅のパソコンへこのファイルが配信されるように友人に頼んでおいた。

高校生になるまで、と時間を置いたのは俺の身勝手な独占欲だ。一年でも二年でもいい。俺にお前を縛り付けておきたかった。勝手だろ?お前が俺を忘れられないと知っていて、俺をずっと待っていると知っていてわざとそうしたんだ。それだけ…お前が好きだった。

晴彦。俺の身勝手でお前を苦しめてすまねえ。こんな文章一つで許されるとは思っていねえ。許してくれとは言わねえ。ただ…礼を言わせてくれ。
ずっと俺を待っていてくれてありがとう。何時も俺を思っていてくれてありがとう。俺だけのいい子でいてくれてありがとう。
晴彦、お前は俺といて幸せったか?あんな風にお前を待たせることしかできなかった俺といて幸せだったか?


俺は幸せだった。お前にそこまで思ってもらえて、お前という人間に出会えてその時間ももらえてとても幸せだった。


だから、晴彦。幸せになれ。


お前にはその権利がある。
お前を、幸せにしてやりたかった。そのつもりだった。お前を幸せにできるのが俺ならとどれほど願ったかしれねえ。

俺を忘れろとは言わねえ。覚えていてくれ。だが、それだけでいい。
俺といた時以上に幸せになって、俺が見たかった世界を、おれがお前と過ごしたかった世界を生きてくれ。

そんで、こっちに来たときにそれを俺に教えてくれ。そん時は、俺の言いつけを守れたご褒美をやるからよ。

幸せに生きたご褒美をな。』


ぼろぼろ、涙があふれて止まらない。必死に嗚咽をかみ殺そうとしても、我慢なんてできるはずもなくて。

琢磨が、自分を想ってくれていた。同じ想いを抱いてくれていた。
そして、幸せになれと―――――。



「晴彦?」

嗚咽を漏らしながらパソコンの前で泣き崩れる晴彦を、四天王寺がそっと抱きしめる。その手が、温もりが、晴彦の心に沁みる。

「四天王寺…、俺は、幸せになれるか?」
「は?当たり前だろうが。てめえは誰の恋人になったと思ってやがる。」

一生幸せにしてやるに決まってるだろうが。

その言葉を聞いて、晴彦は何度も何度も頷いた。

「俺も…、おまえ、を、幸せに、したい。俺といて、しあわせに、なれるか?」
「ああ、もちろんだ。」

優しく微笑んで、そっと口づけをしてくれた四天王寺の首に離れまいと腕をしっかりと巻きつける。

今、ようやく、本当の意味で自分は琢磨と決別できた気がする。

琢磨さん、琢磨さん。俺、幸せになるよ。そんで、いつかあなたの元にいけた時に、隣で手をつないでる四天王寺を紹介するよ。

この人が、俺を幸せにしてくれた人だって―――――。

[ 80/81 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]

top