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「#幼馴染」のBL小説を読む
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8

「痛い。だるい。しつこい。」
「悪かったって言ってんだろうが。いい加減機嫌直せ」

四天王寺におぶられながら、ぶつくさと文句を言う晴彦にまるで悪いと思っていないような口調で謝る四天王寺に、後ろからさらに文句を続ける。

「うるさい。お前が悪い。受ける方の身にもなれ。締まらなくなったらどうしてくれる」
「そしたら俺が一生てめえのおむつを替えてやるさ」

言外に『一生そばにいる』、という意味を含んでいたのに気付いているのかいないのか。ぶつくさと文句を言いながらもしっかりと背中にしがみついている晴彦の手の力がきゅうと強くなるのに気がついて四天王寺は口元を緩ませる。



学校を休んでたっぷりとかわいがってやった後、腹が減ったと文句を言う晴彦にサンドイッチを作ってベッドまで持ってきた。飲み物を持って来たり、口元を拭いたり、それ以外にも晴彦にやたらと構う。やることなすこといちいち甘ったるくて吐きそうだ、とふてくされたように不満を口にしながら真っ赤になる晴彦に四天王寺の頬は緩みっぱなしだった。

「貴様は好きな相手にだとそんな風に可愛らしくなるんだな。二次元の世界とはいえそんな貴様をあのゲームのキャラが独り占めしていたのかと思うと気に喰わんが、その対象が自分となると気分がいいのは事実だな。これからは俺だけにしろよ。あのゲームは禁止だ」
「…四天王寺」

かいがいしくベッドで晴彦の世話を焼いていた四天王寺がふと京也の事を口にすると、晴彦の顔が少し曇った。

「…先に言っておくが、俺は京也という人物を愛していたわけではない。俺は、多分人を愛したことがない。愛、を知る前に、その人は消えてしまった。お、俺が、初めて…あ、愛した、と胸を張って言えるのは、お、お前だけだ。」

真っ赤になった顔を隠すように横にあった眼鏡をかける晴彦の顔を驚いたように凝視すると、四天王寺はその後晴彦の口から琢磨という人物の話を聞かされた。


全てを聞き終えた四天王寺は、何も言わずに晴彦を抱きしめた。

「…言っただろう。俺はお前を決して一人にはしない。もし万が一俺が同じように危険な場所へ行くことになったとしたら、お前も一緒に連れて行く。愛しているなら危険なところへ連れて行くなと人は言うかもしれんがな、あいにく俺は自分がかわいいんでな。一人残したお前が俺がいなくなって誰かのものになるくらいなら、俺のもののままお前も黄泉につれていく。まあ…そんなことになる前に何が何でも生き抜くし、全力で守り抜くがな」

自分勝手であるかのような四天王寺の言葉は、晴彦が一番欲しかった言葉だった。待っているだけじゃない。一緒に、生きていきたい。
あの頃の自分ができなかったこと。琢磨についていくには幼すぎた自分は、もう待っているしかできない子供じゃない。

いい子で待っているのは終わりだ。今度からは、自分からついて行く。四天王寺と、一緒に生きるために。

「俺も…お前とずっと一緒にいたい」

ぎゅう、と抱き着く晴彦に口づけ、四天王寺は顔を上げるとその顔に満面の笑みを浮かべた。

「そうかそうか。じゃあてっとり早く貴様の望みをかなえてやろう」
「は?」



晴彦が四天王寺と同室に移動させられることになったと聞かされるのは、その直後の事だった。
そのまま部屋に帰らずここに住むことを強制しようとした四天王寺に、頼むから必要な荷物を取りにだけ帰らせてくれと訴えた晴彦を歩けないだろうと四天王寺がおぶって晴彦の部屋に連れて行くことになり、今に至る。

「着いたぞ」

ゆっくりと下ろされ、鍵を開けて中に入る。

「うわ!」
「さあ、どこへお連れすればいいんだ?お姫様」
「…頭でも沸いたのか」

部屋に入るなり晴彦をまた今度は姫抱きにして抱き上げた四天王寺に言われた言葉にげんなりとしつつそれでもそっと首に手を回し『寝室へ』と頼む。
言われるまま寝室へ連れて行き、中に入ると四天王寺はその光景に眉を寄せひどく不機嫌な顔をした。

「おい、まさかこれを取りにきたんじゃないだろうな。俺たちの部屋にコイツを入れることは許さねえぞ」
「バカかお前は。仕事を取りにきたんだ」

京也様のポスターを指さしてそう言う四天王寺に呆れつつも嬉しく思う。…京也様のグッズは、全て処分してしまおう。この先前に進むために。

とりあえず急ぎの連絡が入っていないかを確かめるためにパソコンを立ち上げる。すると、仕事の連絡のほかに珍しく母からのメールが届いていた。

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