7
初めは代わりでしかなかった。なのに、いつからだろうか。
晴彦が、心の奥底で叫び続けていたもの。
琢磨がいないことを、ゲームはしょせんゲームでしかないことを、思い知らせてくれる誰かが欲しかった。
泣きじゃくる晴彦を、しっかりと抱きしめたまま幾度もキスを繰り返す。もう、二度とこの温もりを離したくない。
「ご褒美ちょうだい…。おれ、ちゃんと言えたよ。四天王寺から、ご褒美がほしい。」
子供の様にもっと、とキスをねだる晴彦に四天王寺は満足げに微笑み晴彦の望むままキスを与え続けた。
翌朝、ふと目が覚めて体を捩ると見慣れた天井が目に入った。まだ覚めやらぬ目でゆっくりと周りを見渡して、ゆっくりと体を起こすと、ここが四天王寺の部屋であることを知って晴彦はその場で頭を抱えた。
なんてことを…
いくら感情が高ぶっていたからと言って、あんなことを四天王寺にねだるだなんて。
昨日の自分の行動を思い返してあまりの羞恥に転がりたくなる。
「おれが、俺の口から、あいつに向かって『ごほうびちょうだい』だなんて…」
「最高に可愛かったがな」
思わずポロリと口にした言葉に返事が返ってきたことに驚いて隣を見る。するとそこには手に頭を置き肘をついて横になりながら晴彦を見てにやにやと笑う四天王寺がいた。
「忘れろ」
「誰が忘れるかよ。ほら、こっちにこい。勝手に起き上ってんじゃねえ」
体を起こして座り込んでいた晴彦をぐいと引っ張り、その腕の中に閉じ込める。今まで情事の後に正気の状態で素肌を触れ合わせたことなどない。いつも事が終わると、眠るふりをしてすぐに四天王寺の部屋から出ていた。こんな風に、大事に抱きしめられることなどなかった晴彦は慣れない抱擁に顔を真っ赤にして四天王寺の胸を押して逃れようとする。
だが、元々力の差があるために晴彦のそれは四天王寺には小さな子供の抵抗にしかならず、むしろそんな晴彦がかわいくて仕方がないとますます自分の引き寄せて抱きしめた。
「頼むからやめてくれ…」
「なぜだ?恋人同士になったんだ。愛し合った朝にはこうして抱き合うのは普通の事だろうが」
「こいっ…、」
まさか四天王寺の口からそんな言葉が出てくるだなんて思わなかった晴彦は目を大きくして言葉に詰まった。その様子に、四天王寺が怪訝な顔をして晴彦の顔を覗き込む。
「なんだ?」
「いや、その…、こ、恋人同士って…」
「はあ?何言ってんだ?昨日のアレを忘れたわけじゃねえだろうが。お前は両方を選択したんだ。言っただろうが、お前の望むとおりにしてやるってな。愛し合う二人がそのままの関係なわけねえだろ。それともなにか、まだ何か物足りねえか?言ってみろ、てめえの為なら何でもしてやる」
「う…」
今までとあまりに違う四天王寺の態度に調子が狂う。いつもみたいに辛辣にぞんざいに言い返すことができない。こんなことなら、前の方がましだと思う反面そんな風に自分を愛していると全身で伝えてくれる四天王寺に心からそれを嬉しいと感じる自分がいる。
抵抗を訴えていた腕を四天王寺の体に巻きつかせ、その胸元に顔を埋める。とく、とく、と四天王寺の心臓の音が耳に響いて心地よい。まるで真綿にくるまれている雛の様だ。こんなにも安心できる場所があるだなんて知らなかった。そしてそれはまがうことなく晴彦ただ一人のもの。
そう思うだけで、こんなにも胸が甘く痺れる。
ゲームの世界だけでは知らなかった。触れ合えることが、現実の世界で愛し合えることがこんなにも素晴らしい事だなんて。
「…照れくさいんだ…。わかれよ。なんで貴様はそんなに冷静なんだ」
「ばかが、冷静な人間がこんな風になるかよ」
ぐい、と腰に当てられたものの質量にぎょっとする。
「き、昨日散々やったろうが!」
「そう俺も思ってたんだがな。てめえが可愛らしい真似してっから悪いんだぜ。今日は学校は休みだ。今までの分、てめえが受け取ることのできなかった分愛してやるから覚悟しな」
「まっ…、」
抗議の言葉は、あっという間に四天王寺の口の中に吸い込まれてしまった。
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