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6

ぎゅう、と制服の上から自分の心臓を掴み、ボロボロと零れ落ちる涙をぬぐおうともせずに、晴彦がゆるゆると頭を振る。

「晴彦」
「だめ…、だめだ、だめだ…。こんな、こんな俺が、誰かに求められるなんて、ご褒美をもらうなんてだめだ。おれは、悪い子だ。琢磨さんの約束を破った。イイコで待ってるって言ったのに、待っていられなかった。琢磨さんじゃない誰かを、琢磨さんの代わりにした。
こんな悪い子、誰も許してくれない。誰も、愛してくれない。琢磨さんも、いなくなった。俺が悪い子だから。四天王寺だって、いなくなる。きっときっといなくなる。俺が悪い子だから、俺一人を置いてどこかへ行っちゃうんだ!」

まるで幼い子供に戻ってしまったかのように泣きじゃくる晴彦を、四天王寺は抱きしめてやりたくて仕方がなかった。
自分をただひたすらに責めつづける晴彦を、改めて心から愛しいと思った。
こんな思いを抱くだなんて思わなかった。

晴彦は、自分にとってただの暇つぶしで。いつだって簡単に捨ててやるつもりでいたのに。

会うたび、抱くたび、怯えながらも自分の色をその身に少しずつ宿していく晴彦を、愛おしいと思った。千里に対するあれは間違いなく嫉妬だった。

自分だけを求めればいいのに、それを欲しているはずなのにすぐに壁に閉じこもる晴彦を、その壁ではなく自分という壁で囲ってやりたかった。
愛してほしくて仕方がないのに、かたくなに愛を拒む晴彦が愛おしい。
愛されることを知らない晴彦に、自分ができる事。

晴彦が、その愛を自分から叫ぶようにさせるために。

ぱらり、と抱えていたスケッチブックを、また一枚めくる。泣きながらそれを見ていた晴彦が、涙にぬれた目を大きく見開く。

「さあ、選べ。」

ずい、と差し出す紙には、二択の選択肢。

『四天王寺に
→「愛してる」と叫んで抱きつく
 「愛してくれ」と叫んで抱きつく』

「な…」
「ちなみに拒否権はねえ。どっちを選んでも、俺はお前のもんだ。どこにもいかねえ。お前を一人にもしねえ。遠くへ行く時にはお前を連れていく。お前にとってその琢磨とか言うやつがどんな関係のやつなのかは知らねえ。何なのかは知らねえが、俺は、その琢磨とかいうやつみたいにお前一人を待たせたりなんかしねえ。それでも怖いなら、俺が死ぬときはお前も一緒に殺してやる。」
「…!」

四天王寺のまっすぐなまなざしが、晴彦の心を射抜く。何て傲慢で、強引な命令。だが、琢磨のそれとはまるで違う。

晴彦の中で、琢磨と京也がその姿を四天王寺に変え、そして――――――

先ほどどろどろに溶かされた、割れてしまった心が、今、はっきりと形作られた気がした。

晴彦の目から、ぼろぼろとまた涙が零れ落ちる。恐る恐る、きつく握られた胸にある手を前に伸ばして、

「…し、四天王寺を、愛してるから…、愛してください。」
「上等」


泣きながら、震える手を四天王寺に向けて広げる晴彦ににやりといつもの王様のような笑みを浮かべて四天王寺は晴彦を抱きしめた。

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