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2

あの、イチゴを食べさせられたあの日。俺は異様に動揺してしまいなにをしゃべって何をして眠りについたのか全く覚えていない。次の日の朝、目が覚めていつものようにリビングに向かうのも若干戸惑ってしまっていた。

「おはよう」
「あ、おは…」

当の高見沢はそんな事全く気にもしていないようで平然といつものように挨拶をしてきた。くそう、俺だけテンパってバカみたいだ。それでも、やっぱり自然と目が高見沢の口元に行ってしまう。それをばれない様にいつも以上に眼鏡を弄ってかけ直すふりをした。

「あ、俺今日晩飯いらねえから」

このままじゃ普通に接することができるようになるまでしばらくかかりそうだ、とどうしようかと悩んでいたら高見沢がパンをかじりながらそう言った。

「羽曳野に誘われてんだ。」
「あ、そうなんだ」


『羽曳野』


その名前が出た瞬間、なんだかしくんと胸が痛んだ。どうしたってんだろう。いつもの俺なら、『ふたりきりで食事の後何するつもり!?』なんてハスハスしていたのに、今はちっとも萌えが起きない。自分で自分の事がよくわかんなくて、俺は目の前のパンと一緒に色んなもやつく思いを飲み込んだ。



それから、高見沢はほとんど俺と一緒に晩御飯を食べることがなくなった。どうやら羽曳野とずっと一緒に食堂で食べているらしい。二人仲良く食堂でいるところを目撃されている。校内ではまことしやかに二人は付き合っているとのうわさが流れ、事実高見沢は休み時間のたびに羽曳野のクラスに行き羽曳野としゃべっているようになった。

俺はというと、晴彦に宣言した通り毎日毎休み時間羽曳野ウオッチングに…ではなかった。いや、行こうとはしたんだ。実際初めの3日ほどは行っていた。そんで、高見沢が羽曳野と楽しく話をしてるのを晴彦と話しながら見てた。んだけど。

「おい、お前最近来ないのはなんでだ」
「いやぁ〜…。」

そんなある日、放課後に晴彦が俺のクラスに来て前の席に座りながら怪訝な顔をした。そのものずばりの問い詰めに俺はしどろもどろ言葉を濁す。

「お、俺的には、たかみん×羽曳野の王道カプより生徒会長×風紀委員長の喧嘩ップルの方が今熱いんだよね〜」

嘘はついてない。たかみんは見に行ってないけど、会長たちの事を代わりに覗きに行ってるし。だけど、怖くて晴彦の目を見ることはできなかった。だって、明らかに不機嫌なオーラが出てんだもの!晴彦ちゃんよ、何があった!なんでそんなに怒ってるんだ!

「も、もしかして晴彦ちゃん、俺に来てほしかったり?いやん、俺様ドS腐男子×平凡腐男子なんて萌えないわ!」
「千里」

ずっと逸らしていた目を、無理やり顎を掴んで合わせられる。いたいいたい!晴彦ちゃん、顎砕けるくらい力入ってるから!
ぎちぎちと思い切り顎を掴まれあまりの痛みに涙目になる。


「てめえ、舐めてんのか。」
「おい、何してんだ!」


ひいい、怒ってる晴彦ちゃん超怖い!と泣きそうになっていると、俺たちしかいない教室になんと渦中の高見沢が現れた。ちっ、と舌打ちして晴彦が俺の顎を離す。ちょっと!舌打ちしたわよこの子!

「何してたんだ」
「別に。ただのじゃれあいだよな、千里。」

高見沢は晴彦を睨みながら近づいたかと思うと射殺さんばかりの眼差しを晴彦に向ける。あらやだ、たかみんったら友達思いなのね!

「じゃあな、千里。てめえ、逃げんじゃねえぞ。」

晴彦は立ち上がると俺の頭をこつんと軽く叩き、ひらひらと手を振って教室から出て行った。俺はというと、叩かれた頭よりあごの方が痛いなあ、なんてのんきに思いながらも晴彦の最後の言葉の意味をずっと考えていた。あれか。休み時間にパシリに来いってことか。恐ろしい子だこと晴彦ちゃん!

「…大丈夫か?」
「え?ああ、だいじょぶだいじょぶ。いつものことだよ、ほんとただのお遊びみたいなもんだって。」
「…」

へらりと笑って手を振ると納得したのかしないのか難しい顔をして高見沢が先ほどまで晴彦が座っていた席に腰を下ろした。

「な、なあ、高見沢。お前、こんなとこいていいの?あの、は、羽曳野は…?」
「あ?ああ、あいつ今職員室に行ってんだよ。用事が終わる時間がくるまで暇だなってうろうろしてたら、お前の声が聞こえたから…」

…なんだ。そっか。羽曳野を待ってるんだ。別に俺に会いにきたってわけじゃないんだ。

そう考えて、ハッとする。なんだ今の!まるで俺が、たかみんに会いに来てほしかったみたいじゃねえか!

「そ、そういや最近よく一緒にいるよな。いつの間に仲良くなったんだよ。」
「ああ…」





時間が来て、羽曳野を迎えに言った高見沢と別れて俺は一人とぼとぼと寮部屋に向かう廊下を歩いていた。
いつもなら、晴彦の所へでも行こうかと思うんだけどまったくそんな気になれない。原因は、わかってる。だってさっきの晴彦ちゃん超怖かったもん。てのが半分。残り半分は…自分でもよくわからなかった。とにかく、今は一人になりたい。

「はあ…」

足を止めてはため息をつき、歩き出してまた足を止めて。そんなことを繰り返してやっとたどり着いた我が部屋で俺はぼすんとベッドにダイブした。


羽曳野と高見沢が仲良くなったのは、ある事件がきっかけらしかった。放課後、一人一回の廊下を歩いていた高見沢はその廊下の裏に面する体育倉庫のあるあたりから何やら人が揉めているのが聞こえたらしい。何事かと窓から覗き込んで、羽曳野が一人の男子生徒に迫られているのを目撃。男子生徒は明らかに嫌がっている羽曳野の手をがっちりと握りしめ、そのままどこかへ連れ去ろうとした。

『いやっ、だれかっ…!』

その叫びを聞いて、我らがたかみんは颯爽と窓に足をかけ二人の前に降り立ったそうな。ヒーローたかみんは暴漢を難なく撃退。羽曳野は泣きながらたかみんに礼を言った。その後、その出来事のせいで歩くのもままならないほど怯え震えていた羽曳野を高見沢が部屋まで送るっと。そんでもって、安心した羽曳野は高見沢にしがみついて泣いたっと。
落ち着くまで抱きしめてやると、羽曳野が高見沢にお願いをしてきたっと。

『まだ転校したばかりで仲のいい友達もいない。だから、友達になってくれないかなあ?』

優しいジェントルメンたかみんは快くオーケー。さらにさらに正義感溢れるたかみんはまた同じことがあってはいけないとクラスになじむまでしばらく傍にいて行動してやるよ、と羽曳野に言ったそうな。BL的王道ストーリー、めでたしめでたし。

「あほか」

高見沢の話を回想しながら昔話風にオチを付けてみて自分のセンスの無さに落ち込んだ。そうだ。俺が今落ち込んでるのは、己のギャグセンスの無さのせいに違いない。


『羽曳野、たしかにかわいいからな。襲いたくなるやつらが後を絶たないってのも何となくわかるよ。独占したくなるような不思議なフェロモンが出てるよな、男なのに。』



断じて、最後に高見沢が言った言葉にショックを受けたわけではないんだ。

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