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「さあ、どっちにする?」
折りたたまれた紙を広げ、晴彦の目の前に掲げる。そこには、選択肢が二つ書かれていた。
『千里に抱き着いて泣く。』
『どけ、と千里を横にずらす。』
なんだこれは。何の遊びだ。
まるでシミュレーションゲームのような選択肢。ご丁寧に、矢印まで書かれてある。
「さあ、選んで選んで!」
うきうきと子供の様にはしゃぐ千里を見てますます困惑する。新しい遊びのつもりなのだろうか。もしかして、自分の事を気にしてなにか元気になるような楽しい事をとでも考えたんだろうか。
…あんな風に、お前を利用したと暴露したこの俺を。
そう考えると、改めて千里にはかなわないな、と思う。そして、ふと口元に笑みを浮かべて自分のために一生懸命になってくれているバカな友人に付き合うことにしよう、と晴彦は差し出された選択肢の一つを指さした。
「どけ、とずらす、だね!了解!」
にっこり、とまるで悪巧みが成功したとでもいうように笑って、千里がまるでエスコートでもするかのように片手を伸ばして体をずらす。そして、千里の体でふさがれていた視界の先にいたもの。
「し、てん、のうじ…」
なにやらスケッチブックのようなものを小脇に抱え、ポケットに手を突っ込んでじっとこちらを見る、四天王寺が立っていた。
「二週間ぶりだな」
「…」
久しぶりに聞く声は、晴彦の耳を侵食する。ただの挨拶。たったそれだけの言葉にはずなのに、やたらと耳に残る。
じろり、と横にいる千里を見るとぺろりと舌を出して肩をすくめた。
こいつ、確信犯か!一体何を考えてやがる!
怒鳴ってやろうかと強く千里を睨みつけている間に、四天王寺が歩を進め晴彦の目の前に来ていた。
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