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3

琢磨は、昔からそうだった。カリスマとでもいうのだろうか、その全身から溢れる自信とオーラでいつの間にか人が寄ってくる。性格も俗にいう俺様というような性格だった。

晴彦はいつも琢磨にからかわれ、ちょっかいを掛けられ、それでも琢磨が大好きな晴彦は琢磨の後ばかりをついて回った。

恋心と言えばそうなのかもしれない。
晴彦は元々頭がよかったが、琢磨について一緒に外国へと行くためにさらに勉強をした。料理も覚えたし、洗濯も、掃除も、誰の前に出ても恥ずかしくない社交マナーも。全ては琢磨と一緒にいるために。琢磨の傍にいたい、琢磨の役に立ちたい。

その一心が晴彦を作り上げたと言っても過言ではない。

晴彦にとって琢磨は絶対的な存在で、二人の関係は、ただの血縁よりも深いものではないかと思わせるものだった。

晴彦が中学二年生になるころに、琢磨は一つの大きな仕事を引き受けた。それは、内戦の激しい国に行ってその戦地の写真を撮ること。
琢磨はただのカメラマンではなく、戦場カメラマンとなっていた。

「ほんとに行くの?琢磨さん…」
「ああ、今度の仕事はかなりでかい仕事でな。俺から頼んでやらせてもらったようなものなんだ」
「…」

戦場カメラマンである琢磨が戦地に赴くのはいつもの事だ。心配ではあったがどんな時だって琢磨は自分の元に帰ってきてくれていた。
だが、晴彦は今回だけはなぜか胸に嫌な思いが渦巻くのを拭えなかった。

行ってほしくない。

そう言えたら、どれだけよかったことか。でも、琢磨にそんなことが言えるはずもない。唇を噛んで俯く晴彦の頭を、琢磨がガシガシと乱暴に撫でる。

「なあにしけたツラしてやがんだ、ん?子猫ちゃんは寂しいのかな?」

にやりと厭味ったらしい笑みを浮かべる琢磨に、いつものように喰ってかかることはしない。ただ泣きそうに見つめ、ぎゅっと琢磨の服を握りしめる。

「しょうがねえ子ネコちゃんだな。いい子で待ってるんだろ?」

いつものようにからかうような口調ではあるが、優しく言われ素直にこくんと頷く。

「素直な子猫は嫌いじゃねえぜ。いい子で待ってな?いい子にしてたら、ご褒美をやるよ」

そう言って、晴彦の口元に軽くキスを落とした。

琢磨が戦場へと旅立ったのは、それから二日後の事だった。

晴彦は、琢磨の言いつけを守った。不安で不安で仕方なくて泣きそうな夜も、寂しくてたまらないときも、ただじっと琢磨の帰りを待っていた。

「いい子にしてる。泣いたりしないよ。だから、早く帰ってきて…。」

扉を開けて、ただいまって笑って。いい子にしてたか、子猫ちゃんって頭を撫でて。ご褒美をくれるんでしょう?



晴彦の家に、琢磨が赴いた国からの荷物が届いたのはそれから二週間後の事だった。


血に濡れた、一台のカメラと、ネックレス。


帰ってきたものは、それだけだった。



晴彦は、葬儀には出なかった。信じたくなかった。

あんなものがたった二つ。

ただそれだけでどうして琢磨がもういないのだと信じられる?
抜け殻のようにふらふらと街中をさ迷い歩きそこかしこに琢磨の影を探す。もしかして、本当はもう帰ってきてるんじゃあ。どこかに隠れて、自分を驚かせようとしているんじゃあ。

何日も何日も琢磨を探した。

ふらりと立ち寄ったゲーム屋で、今流行の恋愛シュミレーションゲームのプロモーションビデオが流れているのに目を止める。

『しょうがねえな、送ってやるよ』

画面の中で、わざと不機嫌に目をそらす男の子がそう言っていた。
晴彦は、いつまでもその画面にくぎ付けになった。

一時間ほど経って、ふらりと歩き出した晴彦は自宅に戻りパソコンを立ち上げる。


そうだ。琢磨さんは、ここにいる。どこにも行ってなんかない。いなくなったりなんてしていない。いつだって、画面を開けば、すぐそこに。俺の言葉に、俺の望む答えを返してくれる。

カタカタ、カタカタ、一心不乱にパソコンを操作する。


後に社会現象となるほどに人気となる、ボーイズラブゲーム、『俺様を愛せ』シリーズの、京也が生まれた。

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