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「琢磨さん、お帰りなさい!」
「おう、いい子にしてたか?ハル。」

たた、と駆け寄って飛びつくとひょいと抱き上げてちゅ、と軽く頬にキスをしてくれる。外国に滞在することの多いこの青年にとってはあいさつ代わりだ。

「ねえ琢磨さん、今回はどこに行ったの?どんなところだったの?」
「まずは飯だ。今はお預けだ、ちょっと待て。後でたっぷりご褒美をやるからいい子にしてな?」

に、と形の良い口角を上げて軽くウインクする姿はとても様になっていて、ともすればどんな男女も虜にされてしまうだろう。それは同じく目の前の少年もで、そうされてしまえばわがままなど言えなくなる。後に待つご褒美のために、少年――――、幼い野原晴彦は大人しく琢磨と呼ばれた青年の後をついて行った。

琢磨は、よくうちに出入りする母の弟だ。晴彦にとっては叔父にあたる。若くして結婚した晴彦の母には、年の離れた弟がいた。それが琢磨だ。晴彦が生まれた時、琢磨は13歳。多感な中学生は若くして叔父になることに猛反発した。晴彦が物心ついた時には自分の事を『琢磨さん』と呼ばせ、甥っ子というよりは手下の様に扱った。

飴と鞭の使い分けですっかり晴彦は琢磨に従順で、琢磨の言うことなら何でも聞く素直な少年に育っていた。

晴彦が小学校高学年になるころには琢磨は夢であったカメラマンになり、世界中を飛び回っていた。初めのころ、琢磨が出て行くのに寂しくて悲しくて『行かないで』と泣いた。そんな晴彦に、琢磨は人差し指を口に当ててウインクをした。

『大人しくイイコで待ってな?待てができたら、たんとご褒美やるからよ。』

言葉通り、涙をこらえて琢磨を見送り大人しく琢磨を待つ晴彦を、帰ってきた琢磨はこれでもかというほど甘やかした。たくさんのお土産に、自分の知らない国の不思議な話、膝の上に乗せて優しく抱きしめられながら与えられるご褒美は晴彦を夢中にさせた。

「ねえねえ、琢磨さん!おれ、イイコでまってたよ。泣いたりしなかったよ。」
「ああ、そうだな。おいで」

琢磨が食事を終えたころを見計らって袖をツンツンと引き、おねだりをするようにそういうと琢磨は晴彦の方へ向き両手を広げる。晴彦はとたんにその顔に満面の喜びの笑みを浮かべて琢磨の胸の中に飛び込む。
この広い胸板が、晴彦は大好きだった。

抱き着いたまま目を上げると、ふと目を細めて笑う琢磨。晴彦は琢磨の事が大好きだった。

「もう、琢磨!晴彦は6年生なのよ。いい加減叔父離れさせてくれないかしら」
「やだ!俺、離れないもん!大きくなったら、琢磨さんと一緒に外国行く!一緒に暮らすんだ!」

母の言葉を必死に拒否する晴彦に、母は呆れ気味に笑い琢磨は楽しそうにからからと笑った。

「だめ?琢磨さん、だめ?おれ、イイコにしてるよ?泣いたりしないよ。何でも言うこと聞く。ご飯だって俺がするし、洗濯だって、掃除だって、琢磨さんの為なら何でもするよ。」
「ああ、ハルはほんとにいい子だな。そんなに俺が好きかよ?」
「大好き!」

にっと笑って頭を撫でる琢磨に、目を輝かせて即答する晴彦に琢磨はくつくつと喉の奥で笑う。

「刷り込みたあこのことだな。なあ、ハル。お前は可愛いな」
「か、かわいいってなんだよ!」
「はは、恥ずかしいからって威嚇すんじゃねえよ。毛を逆立てたってかわいいだけだぜ?子猫ちゃん」
「こ、子猫って言うな!」

真っ赤になってむくれる晴彦に、琢磨は声を立てて笑った。

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