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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




6

ベッドの横に置いていた眼鏡をかけてベッドから起き上がると、晴彦は立ち上がって部屋の明かりをつけた。

「不法侵入か。会長ともあろうものがどうした」
「そうだな、理由は『学年首席の体調が心配で』でどうだ?」
「思ってもいないことを」

はっ、と鼻で笑って四天王寺に向かい合う晴彦。その目が赤くなっているのに気付く。

「それで、聞きたいことは?不法侵入までしてくるくらいなんだ、よほど大事な事なんだろうな」
「ああ…、少なくとも俺にとっては重要だ。」

手に持っていた本を置いて、晴彦の腰掛けるベッドへと近づく。目の前まで来るとじっと泣見つめられ、晴彦は所在なげに視線をそらした。

…どうしてそんな目で見るんだ。今まで通り、人を馬鹿にしたようなからかうような目で見ればいいのに。

「目をそらすな」
「…」

顎を掴まれ、ぐいと無理矢理に視線を四天王寺に固定されわずかに顔が歪む。いつもならそんな晴彦の態度にさも楽しそうに口角を上げる四天王寺がただじっと自分を見る。

いやだ…。その目は、いやだ…。

「…てめえは今誰を見てる」
「…、四天王寺、だが…」
「うそをつくな」

何を言っているのかと名を告げると、即座に否定された。一体何を言っているのか。目の前に写る人物は四天王寺ただ一人しかいないではないか。
怪訝に眉を寄せた晴彦から視線をそらすことなく、顎を掴む手とは反対の手の人差し指で、四天王寺がトン、と晴彦の胸を突いた。

「俺が聞いてるのは、お前のここが写している人物は誰なのかということだ」

四天王寺に軽く突かれた胸が、針を刺されたかのように痛い。歪みそうになる顔を無表情に保ち、胸を突く指をそっと払いのける。

「…誰も、写さない。」
「嘘をつくな」
「嘘じゃない!」

四天王寺に否定され、思わずかっとなって声を荒げた一瞬を四天王寺は見逃さない。

「『…素直になりな?子猫ちゃん』」
「…!!」

四天王寺はわざとその顔にいやらしい笑みを浮かべ、晴彦の頬に手を添えながらそう言った。
途端に、晴彦の顔が真っ青になり、わなわなとその唇が震えだす。

「…やめろ…、お前は一体、何がしたいんだ。俺がどうであれ構わないだろう。お前はただ俺を組み敷きたかっただけなんだろう!なら、抱けばいい!俺の感情や心など気にせず、ただの性欲処理として使えばいいじゃないか!」

晴彦は顎を掴む四天王寺の手を思い切り振り払い、シャツを掴むと思い切り左右に引きちぎった。肌蹴られた肌をそのままに、自ら四天王寺に抱きつきキスをする。

だが、四天王寺は晴彦の腕を掴むと自分から思い切り引きはがした。

「気にせずにいられるか!俺はお前に他の誰かの代わりにされるなどごめんだからな!俺が相手にしたいのは野原晴彦という人間であって、人形ではないんだ!」
「…!」
「俺はお前という人間を支配したいんだ!意のままに動くお人形を相手にしたいわけじゃない!思い通りにならないからこそ手にいれる価値があると言うのに…、貴様は俺を俺としてみていないだろう!…、俺を、こいつだと思っているのか!」

四天王寺の指差す先。そこには、京也様のポスターがあった。

「俺を見ろ、野原晴彦!お前を組み敷いていたのは誰だ!お前という人間を欲していたのは誰だ!答えろ!」
「…っ、やめろ!」

思い切り詰め寄られ、晴彦は四天王寺を振り払いベッドから飛び降りて距離を取り壁を背に四天王寺を威嚇するかのように睨む。だが四天王寺にはそんな晴彦の姿が、怯えているただの子供にしか見えなかった。

「頼んでない…、お前に、俺と人間同士の付き合いをしてほしいなどと頼んでない!…っ、そうだ、お前の言うとおりだ。俺は、この人が、このゲームのキャラが好きなんだ!でも、どれほど焦がれてもゲームのキャラなんて実在するわけがない。こんな人間なんているわけがない!…お前は、違った。お前はまるで京也様が現実世界に飛び出してきたかのように行動や言動が生き写しだった。
そうだよ。俺はお前を、利用したんだ。人の感情なんて必要ない。ただクリックするだけで思う通りの展開に動く。思うとおりの答えをくれる。予想通りの優しさ、言葉、甘さ、自分の思い通りに進む世界でよかったんだ!現実の愛なんているものか!」

そう言って口元に歪んだ笑みを浮かべる晴彦の姿を見て、四天王寺が驚愕に目を見開く。言葉が出ないとは、このことか。

晴彦は、自分をゲームのキャラの代わりにしていた。ゲームの通りに自分を扱ってくれる人間としてしか四天王寺を見ていなかった。

「…それで、てめえは満足なのか。シナリオ通りにしか進まないぬるい世界がお前の望みか」
「…現実世界なんて、クソだ」

四天王寺を見つめる晴彦の目は、四天王寺を写してはいなかった。
しばらく無言の時が流れ、やがて四天王寺がゆっくりと踵を返す。

「…なら一生、そうしてその世界にいろ」

振り返ることなく出て行く四天王寺の後ろ姿が、扉の向こうに消える。扉が閉まるまで微動だにしなかった晴彦はしばらくするとゆっくりと机に向かい、パソコンの電源を入れた。

『よう、子猫ちゃん。ご機嫌はどうだ?』

カタカタ、矢印の現れる選択ボタンを選んでクリックする。こう言われた時はこう答える。そうするとこう返してくれる。

「…ほら…、思うとおりに言葉を返してくれるんだ。」

傷つくことも、置いて行かれることもない。
そんな素晴らしい世界がここにはある。


パソコンを操作しながら、はらはらとその頬に伝う涙は止まることを知らなかった。

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