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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




晴彦の心に巣食うもの

「…チッ、」

また間違えた。

いらだたしげに消しゴムを取り、がしがしとシミでも落とすような勢いで乱暴に書類の文字を消す。傍から見てもピリピリとしてかなり不機嫌であることがうかがわれる生徒会長に、生徒会室にいる全ての人間がびくびくと怯えていた。

「…あの、会長…」
「あ!?」

呼びかけるとものすごい勢いで眉間にしわを寄せた顔で睨まれる。声をかけた副会長はびくりと体を竦ませながらおずおずと口を開いた。

「…あの、ここ最近、ひどくご機嫌が悪いようなのですが…、何かありましたか?」
「…なんもねえよ」

明らかに何もない、という態度ではないだろうとその場にいるすべての人間が心の中でツッコミを入れる。とにかく、何とか原因を聞きだして機嫌を直してもらわないと。そうでなくとも元々俺様なこの人のその傲慢な態度で他の役員たちは結構辟易しているのだ。

こんな態度になる前まで、あれは一週間ほど前だったか。何だか連日妙に機嫌がいい会長に、この機械のような人間も年相応の表情をするのだと皆ホッとしていたのに。

そう。四天王寺はこの学園においてその存在を一目置かれる者であるがゆえに、皆一様に四天王寺の前では気を張ってしまう。つまり、この生徒会室の全ては四天王寺を中心に回っておりその四天王寺が機嫌が悪いと皆どうしてよいのかわからないのだ。

「野原晴彦」

副会長の出した名前に、ピクリと四天王寺の眉間が動く。

「彼と、なにか「うるせえ」

続きを口にしようとした副会長の言葉を遮ると、がたんと乱暴に立ち上がり出口へと向かう。他の役員たちもおろおろと四天王寺を見つめるしかできない。

「あいつの名前を出すんじゃねえ。」

じろり、と晴彦の名を口にした副会長ににらみをきかせると、四天王寺は壊れんばかりの勢いで扉を閉めて出て行った。


全く持って気に入らない。
晴彦を乱暴に抱いた日からずっとこの調子だ。

中庭に、千里に連れて行かれて話をした日。千里から問われ、晴彦について自分の知っていることが晴彦のごく一部であったことを思い知らされた日。ただ単純に、千里が自分よりも晴彦のことについて詳しかったことが腹立たしかった。

この俺様を差し置いて、千里が自分の奴隷の全てを知っているなど君主としてのプライドが許さない。

その日から、晴彦のことを知るためにともに食事をするようにした。

一つ一つ晴彦のことを知る度に、子供が新たな知識を得たように満足感が四天王寺を満たした。

だが、反対に晴彦の顔は困惑と疑心が垣間見えた。

なんだその顔は。この俺がおまえのことを知ろうとしてこうして動いているのだから、そんな顔じゃなくてもっと縋るような嬉しそうな顔をするべきだろうが。

それでも、晴彦はそんな顔をしていてもなんだかんだ自分に対して笑顔が見えたりするようになり、あの日。あの光景を目にするまで、四天王寺はご機嫌だった。


たまたま通りかかった、保健室へと続く廊下。そこで、千里に手を引かれている晴彦を見かけた。ちょうどこちらは死角にでもなっているのか、向こうは四天王寺に気付いてはおらずなにやら攻防しているかのように見えた。
そうしているうちに、みるみる千里の顔が情けなくゆがみ、晴彦が顔を逸らす。

こちらに向いたその顔は、今までに見たことがないほどに千里への申し訳ない、という気持ち。そして、まるで千里に甘えたいのを我慢しているかのような表情に見えたのだ。

それを目にした瞬間、今まで晴彦の事を少しずつ知れただとか、笑顔を見るようになっただとかの新たな発見を喜んでいた自分がひどくみじめに思えた。屈辱を覚えた。

呼びだした晴彦の顔を見ると苛立ちはピークを迎えた。

どうしてこいつは、あの千里とか言うやつにだけあんなにも無防備な姿を見せるのか。自分の物であるはずなのに。こいつを生かすも殺すも、俺のさじ加減一つだと言うのに!


苛立ちのままに晴彦を凌辱した。今までになく乱暴な抱き方をした。ぐちゃぐちゃになって横たわりピクリとも動かない晴彦を見て、すっとするどころか余計に苛々とした。
いつものように後処理をしようと伸ばした手を払われて、風呂場に連れて行くことを拒否された時は言いようのない不快な気持ちが胸を占めた。

風呂場から出てきた晴彦は、今までの晴彦とは違っていた。ほんの少し前まで、自分にも垣間見せていたその内側を、完全に閉ざしてしまっていた。

その次の日から、呼びだして同じように食事を共にしようとも、晴彦の事について何か尋ねようとも、淡々とそれに対して答えるだけ。笑顔は見せても、それは少し前まで自分が見ていたものではない。
苛立ちが余計にまし、更に晴彦を乱暴に抱く。

そんな日が続いていた。

それに呼応するようにして四天王寺自身は日に日に失態を犯すようになっていた。きちんと仕上げたはずの書類に不備が出たり、他の役員に当たったり。
何をやっても上手くいかない。

「なにかあったのか、だと…?」

なぜ自分がこんなにもからまわっているのか、原因を知るやつがいれば教えて欲しいくらいだった。

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