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「#幼馴染」のBL小説を読む
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4

リビングのソファに座り、背もたれに体を預けぼんやりと天井を眺める。昼休みに、結局何も口にしなかった晴彦を千里は責めたりはせずただ無言でそっと寄り添った。

千里の言葉に、今にも全てを投げ出して縋ってしまいそうになった。けれど、それを僅かな細い理性でつなぎ止めた。

今千里に縋ってしまうと、きっと自分はだめになる。今まで必死の思いで作り上げてきた自分がなくなってしまう。

ぎゅっと唇を噛みしめ、目を閉じる。


「…いい子にしてる。寂しがって泣いたりしないよ。だから、だから…」


誰もいない天井に向かい、震える両手を伸ばす。決して握り返されることはないと知りながら、晴彦はただ手を伸ばしていた。



「…遅い」

その日の夜、いつものように呼び出しを受けた晴彦が四天王寺の部屋に行くなり不機嫌そうな部屋の主がふんぞり返って腕組みをして玄関に現れた。

「…いつも他の用事を投げ出して急いで来ていると言ってるだろう」
「はっ、どうだかな。…呼び出されたのがあいつになら、もっと早いんじゃないのか」
「は?」

ひどく不機嫌に、心底蔑んだように言われた言葉に晴彦は怪訝に眉を寄せた。そんな晴彦腕を掴むと、四天王寺は乱暴に晴彦を寝室に投げ込んだ。
ベッドに投げ出され、振り返るとすぐに四天王寺が覆いかぶさってくる。

「おい!…っん、む…!」

抗議を申し立てようとしたその口は、すぐに四天王寺のものでふさがれた。性急に口を割り、口内を貪るように吸い付くそれが苦しくて四天王寺を何とか引きはがそうと手で額を押そうとしたが逆にその手を取られて頭上でひとまとめにされた。

「んぐぅ、…っん、ふう…っ!」

飲みきれない唾液が口端を伝い、流れ落ちる。息苦しさにじわりと晴彦の目に生理的な涙が浮かぶ。軽く酸欠を起こし、くらくらとめまいがしてふと意識が飛びかけた時にようやく解放され大きく息を吸い込んだ。

ハアハアと荒い息を整える晴彦を、四天王寺がじっと見つめる。その目が、激情に揺れているのに気付き晴彦は自由にならない組み敷かれた体を無意識に捩って逃げを打とうとした。

「いつもの余裕はどうした」
「…っるさ…、」

ぞっとするほどの強いまなざしを向けられ、いつもの憎まれ口も上手く口から紡げない。
なぜ、どうして。

「いや、だ…」
「あ?」

―――――そんな目で、俺を見るな…!


怖くて、ぎゅと目を閉じ顔を逸らすと正面からいらだたしげに舌打ちが聞こえ、パン!と頬を叩かれた。そして、思い切りシャツのボタンを引きちぎられる。

「よそ見をするな。目をそらすな。貴様は、俺の玩具だろうが」
「…っ!」

四天王寺の目は、まるでガラス玉のようだった。


汚れた体を横たえたまま、ピクリとも動かず四天王寺に背中を向けたままの晴彦を風呂場に連れて行こうと抱き上げようと伸ばした手をぱしんと払われた。

「…自分で、いける…」

酷使された体を震えながらゆっくりと起こし、よたつく足でベッドを降りて部屋の扉へ向かう際も晴彦が四天王寺に視線を向けることは一切なかった。
払われたまま、所在無く宙に浮かされたままの手は相手に触れることはなく、ゆっくりと閉まる扉がやけに重々しく感じた。


ざあざあ、出しっぱなしにして流れるシャワーに、壁にもたれ目を閉じて打たれる。かくんと崩れ落ちそうになる膝に力を入れた時に、どろりと己の中から四天王寺の出したものが流れかっと顔が熱くなる。シャワーでそれを流し、また眼を閉じて湯に打たれながら震える手を上げてそっと自分の右頬に触れる。
そこは、四天王寺に行為の前に叩かれた場所だ。


…あんなにも、乱暴に抱かれたのは初めてだ。抱いた、などという表現ではない。まるでレイプだった。

『お前は俺の玩具だ』

その言葉を聞いた時、晴彦の心の奥のどこかがパリンと音を立てて割れたような気がした。
ぎゅっと自分の体を抱きしめ、きつく目を閉じてその場で小さく蹲る。

抱かれている間中、叩かれた頬がじくじくと痛み、抱きながらまるで人形でも見るかのような目で自分を見つめる四天王寺の姿にぎしぎしと自分の中のどこかが軋んだ。

そう考えて、ふと閉じていた目を開けてゆるりと立ち上がる。シャワーの湯気で曇った鏡を手で拭い、そこに写った自分を見る。

…そうだ。なにを、心を痛めることがある。それを望んでいたのは自分ではないのか。
しっかりしろ。惑わされるな。

ただ、ほんの少し。ほんの少し、四天王寺が、つい最近まで自分との関係を変えたいと思っているような行動をしたから。

まるで、人間同士のような付き合い方をされたから。


「そうじゃ、ない…。」


生きている人間同士のようなことを望んでいたわけじゃない。



ゲームのように、ルートに乗って進むような関係でいいんだ。



ざあざあざあ、流しているのは汚れなのか、自分の心なのか。
呪詛の様に『いらない』と繰り返しながら、晴彦は鏡の中の自分を見つめた。

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