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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




四天王寺の変化

ピロリン、


新しく着信を告げる携帯を手に取り、晴彦はため息をついた。相も変わらずきまぐれで勝手な男だ。こちらの都合などおかまいなし。

「…いいところだったんだがな」

パソコンの画面をつ、と指でなぞりセーブするとシャットダウンして立ち上がり部屋を出た。



「遅い」

部屋の主が玄関を開けた所で腕を組みふんぞり返り睨みつけてくる。うんざりしたようにため息をついて中に入り、扉を閉める。

「仕方ないだろう。これでも全ての用事を投げて来たんだ。移動の時間くらい大目に見ろ」
「俺に呼ばれる以外に大事な用事などないだろうが。つべこべ言わずにとっとと来い」

あごで上がれ、と指され何様だと思いながらも大人しく従う。四天王寺の後に続き部屋に入ると、テーブルの上に並んでいる食事を見て立ち止まった。

向かい合うように用意された食器や料理に、晴彦が怪訝な顔をする。

「誰かくるのか。」
「は?何を言ってるんだ。貴様以外に誰が来る」

いや、ならばこの食事の用意はなんだというんだ。意味が分からない、と眉を寄せる晴彦の肩を掴んでぐいと押す。

「おい」
「いつまで突っ立ってやがる。とっとと座れ。」
「は?」

ますます怪訝な顔をする晴彦をよそに四天王寺は無理矢理晴彦を椅子に座らせるとその向かい側に自分も座った。

「いただきます」
「…!?」

両手をきちんと合わせて食事の挨拶をする四天王寺に目を見開く。四天王寺はじろりと晴彦を睨み、無言で同じ所作を求められていることに気がついた晴彦は戸惑いながらも同じように手を合わせて小さく『いただきます』と呟いてちらりと四天王寺を見た。

何だか満足そうな顔をして箸を持ち、食事を始める四天王寺に肩が揺れる。

「なんだ」
「…、いや、なんでも、」

明らかに笑いをこらえているであろう晴彦に対して小さく舌打ちをすると、晴彦にも箸をとるように勧めた。
どうやら、よくわからないがこれは自分に食べろと言われていることがわかって、晴彦は静かに箸を取った。

テーブルの上に所狭しと並べられている幾多の料理に目を見張る。野菜、魚、肉、いろいろな食材がふんだんに使われた多様な料理の数々にこいつは誰かと会食の約束でもいていてキャンセルされたのだろうと言う考えに落ち着いた。

あまり食欲はないのだが、捨てるのではもったいないと晴彦はせっかくの料理なのだからと箸を進めることにした。


少しずつ食べ始めてしばらくすると、時折四天王寺が何かを確認するかのように自分の箸の先を見ていることに気がついた。相手にバレないように四天王寺を観察すると、晴彦が一つ料理を摘む度小さくうんうんと頷いている。

先ほどのいただきますの挨拶といい、今の仕草といい、何だか普段俺様だと言われ偉そうにしている四天王寺とのギャップに晴彦は笑いをこらえるのに必死だった。

「…刺身が嫌いなのか」

二人で無言で食べ勧めているとぽつりと四天王寺が呟いた。

「え?…ああ、別に嫌いじゃあないさ。貝がだめなんだ」
「そういえば貝だけには全く箸をつけていないな。肉の方が好きなのか。揚げ物はよく手を着けているな」

…一体なんだと言うんだ…?

晴彦の食べたものを分析しては納得したかのように首を縦に振る。一つの考えが頭によぎるも、晴彦はまさかな、とそれを打ち消した。

食事が終わり、片付けをしようとした手を止められる。四天王寺がどこかに電話をかけると、執事服を着た使用人らしき人物が幾人か現れテーブルの上を片づけ始めた。

おそらく四天王寺家の使用人なのだろう。

「…ありがとうございます」

片づけをする使用人たちに礼を言うと、皆びっくりしたように目を丸くした。だがすぐに笑みを浮かべ深々と礼を返す使用人たちに同じように笑みを返すと、横からぬっと手が伸びてきて晴彦を引っ張った。

「おい」
「うるせえ。使用人なんかに愛想振りまいてんじゃねえ」
「四天王寺!」

ひどく不機嫌に言い放った四天王寺に、晴彦は思わず声を上げた。大きな声で呼ばれ、四天王寺が目を見開いて晴彦を見る。

「…自分のために動いてくれる人に対して、そんな風に言うもんじゃない。」
「は?何言ってんだ、こいつらはこれが仕事だろうが」
「仕事だからといってそんな扱いが許されるわけじゃないだろう。金を払っているから何をしてもいいと言う傲慢な考えは間違っている。そんな主人に誰もついて行かないぞ」
「…チッ、」

晴彦にたしなめられますます機嫌が悪くなった四天王寺を見て、晴彦は今日は一段としつこく責められるかもな、とこのあとの情事に少し気が重くなった。
だが、そのまま寝室に投げ入れられるかと思っていた予想は外された。

「…悪かったな」
「…!い、いえ、とんでもございません!」

なんと、四天王寺は自分が暴言をはいた使用人に対して謝罪をしたのだ。
これには晴彦だけでなく使用人たちも心底驚いていた。

「アホ面」

ぽかんと口を開けてしまった晴彦の鼻をきゅっとつまみ、そのままリビングのソファに座る。手を引かれている晴彦も当然同じく引っ張られ四天王寺の隣に倒れることになり今日はソファでのプレイがお好みかと倒れたソファで目を閉じた。

「おい、眠いのか?」
「は?いや、」

ところが、いつもならすぐに覆い被さってくる四天王寺が動かない。それどころか、倒れている晴彦に対して疑問を投げかけてくる。

「なら座れ。」

ぐい、と倒れた体を持ち上げられ、自分の隣に座らせテレビを付けた四天王寺に晴彦はますます混乱するばかりだった。

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