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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




4

促されるままに千里について空き教室にきた四天王寺は、教卓にもたれかかり腕を組んでふんぞり返って千里をじろりと睨んだ。

「何の用だ」
「…晴彦の事です」

晴彦、と名前を出されピクリと反応するも態度を崩すことなく千里を睨みつける。四天王寺の睨みにも怯えることなくそれどころか睨み返してくる千里に四天王寺は少し驚いた。

まさか、晴彦以外にも自分にこんな目を向ける人間がいるとはな。

「あなたは、晴彦とどんな関係なんですか?」
「…それをお前に教える必要があるのか?」
「あります」

はん、と鼻で笑って返した答えにもきっぱりとそう告げる千里をじろりと睨む。一体なんだというんだ。まさか、晴彦に限って自分との関係を千里にばらすことはないと思っていたが。

そんな四天王寺に向かい、千里はさらに言葉を続ける。

「…最近、ずっと晴彦の様子がおかしくて。いつものように振舞ってるつもりでも、全然違う。あんた、俺が中庭で晴彦に飛びついた時、後ろの茂みにいただろ。俺が行くまで、晴彦に何をしてた?」

『晴彦と何をしてた?』ではなく、『晴彦に何をしてた?』

そう聞かれて四天王寺は少し目を見開いて千里を見た。…純粋に、驚いた。まさか、あの一瞬、晴彦に突き飛ばされたあの時、あそこに自分がいることに気が付いていたのか。そして、晴彦の様子がおかしいと。はた目から見て全くそうとは思えないのに、この男は晴彦の様子がおかしいというのか。

しかも、その原因が四天王寺にあるのではないかとこうして自分に向かって明らかな不信感を持ち目の前にいる。

「…晴彦は、自分の事は何にも言わない。いつもいつも、人の事ばかりだ。何があっても、『貴様に心配されるほど落ちぶれてはいない』だなんて言って…」

ぐ、と唇を噛む千里に、得も言われぬどす黒い感情が湧く。


…自分のせいで、俺に性奴隷のように組み敷かれているのだと言ってやったらこいつはどうするのだろうか。


晴彦の傍から、離れるだろうか。


お前を守るために、やつは俺に屈服しているんだ。
そう告げようとした時、千里がまっすぐに四天王寺を見た。



「今苦しんでいる原因があんたなら、晴彦を…助けてやってほしい。それはきっと、あんたにしかできない。」



四天王寺を見つめる千里の目と、真正面からぶつかった。
今し方言われた言葉を理解しようと、脳がフル稼働するも全くわからない。
目の前の男は、晴彦の様子がおかしいのは自分のせいだと言った。自分が晴彦に何かしたのではないかと。なのに、そいつが告げる言葉は自分を糾弾するものや怒りのものではなく、

――――懇願。

「…どうして」
「え?」
「どうしてそう思うんだ。俺のせいだと言うのなら普通『離れろ』と言うんじゃないのか」

苦しめているのは自分ではないかと疑いかかったくせに、晴彦を助けろと言う。全く持って意味が分からない。
しかも、それができるのは自分だけだと言うのだ。
この男に『離れろ』と威圧されたところで四天王寺は歯牙にかけるつもりもなかった。むしろ、千里のせいで晴彦がその身を差し出したことを伝え離れさせて孤立させようと考えた。千里という支えがなくなったとき、晴彦はどうなるのだろうか。そのさまを見てみたいとさえ思ったというのに。
『解放して苦しみから解き放て』ではなく、『そばにいてなんとかしろ』というのだ。

「…晴彦の、顔。」

少しうつむき、ぽつりと千里がこぼす。

「あんたの名前が出た後、一瞬だけ…晴彦、置いていかれた子供みたいな顔するんだよ。」

ぐ、と唇をかみしめうつむく千里のうなだれた頭を無言で見つめる。どちらも何も言わないままに時が過ぎる。どれくらいそうしていたのか、四天王寺が小さく息を吐き出した。

「…あいつが好きなものはなんだ」
「え?」
「なんでもいい。食べ物や、趣味など、興味のあるもの。それらのどれかを一つでもお前は知っているか?」

それはもちろん、と不思議に首を傾げる。さすがに『晴彦の大好きなものは京也様です』とはいえないが、四天王寺の問いに頷くと四天王寺は千里から目をそらしうんざりしたように息を吐いた。

「俺は知らん。食べ物や趣味どころか、ヤツが何を考えどう思っているかなんてわからん。
俺に対するあいつの態度が面白くてからかいに行ってるだけだ。…だから、それは貴様の勘違いだ。」

そう言って、話は終わりだと言わんばかりに背中を向けて教室を出て行く四天王寺を無言で見送る。



「…似てるんだ」



四天王寺と、京也様。
千里は、去っていく四天王寺の後ろ姿をただ見つめていた。

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