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「おはよう」
「お…、おはよう」
朝、制服に着替えて部屋を出るとリビングに朝ご飯の用意をして高見沢がコーヒーを煎れていた。俺たちの寮は寝室が各自、兼用のキッチンとリビングに風呂とトイレがあるちょっとした2LDKのマンションのような造りになっている。さすが金持ち校。
初めて同室者として挨拶したときに、二人で色々分担を決めた。月水金は高見沢が朝ご飯担当。火木土は俺。風呂とトイレ掃除は逆。昼御飯は各自自由、夜は朝の当番が基本だが付き合いなどもあるのでいるかいらないかを連絡すること。
恋人同士か。
だがまあ、役割を決めていた方が楽っちゃ楽。高見沢は料理もうまいし。
ネクタイを締めながらテーブルにつくと、高見沢が目の前にコーヒーを置いてくれた。
「ありがと」
「おい、ネクタイ曲がってんぞ。」
高見沢が俺のネクタイをきちんと締め直す。
彼氏か。
もちろん脳内では俺のポジションにカワイイ系の男の子を置いて
『世話好き攻め…ハスハス』
なんて想像してるのは内緒だ。
「ありがと」
「お前はいつまで経っても上手く結べないんだな。俺がいなきゃなんにもできないんじゃないのか?」
「そうよダーリン、いつまでもそばにいてね」
俺の冗談にくすくす笑いながらぽん、と頭に手を乗せ、席に着いた高見沢にならって俺も椅子に座る。
向かい合っていつものように食事を始めながらぼんやりと高見沢を見る。
…俺が腐男子だってバレちゃうと、もうこんな風にご飯も食べてくれないかもなあ…。下手したら同室解消、とか言われるかも。
そう考えてツキリと痛む胸にはっとする。
いやいや、なんだ今のツキリっての!そうだ、あれだな!同室解消されちゃったり腐男子だってバレちゃったりすると俺のたかみんハスハス計画がパアになっちまうもんな!
うんうん、そうに違いないと一人こくこく頷いていると高見沢は俺を見てなんだか笑っていた。高見沢の視線に気が付いて、ほっぺに何かついてるのかと思ってぺたぺた触りながら高見沢を同じように見つめ返す。
「な…、なに?」
「いや、お前はおもしれえなあと思ってさ」
なんだとちくしょう!どうせ俺は面白い顔だよ!
「顔が変だとか言う意味じゃねえよ。くるくる表情が変わって、見てて飽きねえって意味だよ」
「一緒じゃねえか!」
ぷくりとふくれてトーストにかじりつくと高見沢は声を立てて笑った。あ…、俺、この顔好きだな。心底楽しいって顔してる。それの原因が俺の顔ってのが気に喰わんが、いいもん見れたので許してやろう。
「ほんと、お前といると飽きねえよ。お前が同室者でよかった」
たのしそうに笑いながらそう言った高見沢の一言に、何だか泣きそうになった。
「なに死んだふりしてんの。熊でも出た?」
「知ってるかい晴彦ちゃんよ。熊は死んだふりしたら余計に手を出してくるんだぜ…」
「それこないだ一緒にテレビで見ただろうが」
ノートでぺしんと教室の机に伏せる俺の頭を叩く晴彦をじとりと上目遣いで見つめると『平凡の上目遣いキモイ』と言われた。愛が痛い。
「んで?どうしたよ」
「…いやあ…」
前の席のイスをまたぎ、向かい合わせになって顔をのぞき込んで聞いてくる晴彦になんて言ったらいいのか上手く感情を説明できなくて眉を寄せていたらくしゃくしゃと頭をなでられた。
「とりあえず元気を出せ。お前が静かだとつまらん」
ん、と差し出された飴を受け取り、口に入れてころころと転がす。晴彦ちゃんたら、普段冷たいくせにこういう時すごく優しいんだから。ギャップ萌えめ。惚れちゃうわよ。
「お前が元気になる情報を一つやろう。今日転校生がくるそうだぞ」
「なにい!?」
晴彦の言葉にがばりと体を起こす。
「うっそやっべ、王道?いや、ビビり平凡?いやいや、最強不良とかもおいしいなあ!」
目を輝かせて周囲にバレないように晴彦と顔を寄せ合ってひそひそと話をする。俺たちはクラスのやつらに腐男子だとばれないように隠している。バレたら警戒されて萌えを補給できないからね。
…だから、高見沢にもバレずにいる。
「おい」
晴彦と顔を寄せ合って話し込んでいると、ふと上から低い声がした。
顔を上げると、そこにはあからさまに不機嫌な顔をした高見沢。ちょ、なんですかその顔。超こわいんですけど。もしかして、今の会話聞かれてた?
「な…、なんでしょうか高見沢君」
「…」
内心ドキドキしながら返事をするも、睨んだようにこちらを見たまま一言も話さない高見沢にさらに不安が募る。やべえ、どうしよう。まじで腐男子だってばれちゃったんじゃ…?
「じゃあ俺は教室戻るわ。」
そんな嫌な空気を読んでか読まずか、晴彦が立ち上がりひらひらと手を振って教室から出て行った。ちょ、おいてかないでえええ!
一人取り残された俺は自分の教室なので『じゃあ俺も〜』なんて立ち上がって出て行くわけにもいかずただただ高見沢の無言の威圧に耐える。うう、こわいよたかみん!なんかあるなら言ってくれ!
「…あいつと、よく一緒にいるよな。」
「え?あ、晴彦?うん、まあふ…友達だし」
腐レンズですと言いかけて慌てて言い直す俺をちらりと高見沢は一瞥してふうん、と返事をした。そして、先ほどまで晴彦が座っていた椅子に同じように座り俺と向かい合う。
「お前、友達いたんだな」
「失敬な!!」
わはは、と笑う高見沢は先ほどまでの不機嫌な様子はもうなくて、俺は腐男子だってばれていなかったことと機嫌の直った高見沢にほっと胸をなでおろした。
「無自覚微俺様人気者攻めぷまい」
教室を出て行った晴彦がそう呟いていたことなんて全く知らない。
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