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「何をそんなにイラついていらっしゃるんですか会長」
生徒会室に戻った四天王寺に、仕事をしながら遠慮がちに声をかけてきた副会長を睨みつけると副会長は一瞬怯んだように体を少し引いた。
「別にイラついてねえ」
「いや、明らかにイラついてるでしょうに。困るんですよ、他の役員たちが怖がってしまって仕事がはかどりません」
副会長の訴えに部屋の中を見渡すと、副会長以外の役員たちが皆びくびくと覚えた目でこちらをうかがっているのがわかった。ちっ、と舌打ちをしてガリガリと頭をかく。
「珍しいですね、あなたがそれほどまでにイラつくのは。今までどんなことがあっても憮然とした態度でいらしたのに」
「どんなことってなんだよ。そんなに何かあったか?」
「ほら、高見沢。入学当初、あなたを差し置いて人気ナンバーワンだったでしょう。」
聞きなれた名前にピクリと軽く反応する。最近自分が口にした名前だ。もっとも、どんな人物かまでは知る由もない。あれは、ただの晴彦を手に入れるためのコマである小さな一つだったに過ぎない。特に自分が気にする相手でもないのだ。だが、そう言えばと四天王寺は思いだす。確かに、高見沢は一時期自分を抜いて人気ナンバーワンだった。
「あの時のあなたは、それを聞いて鼻で笑ってふんぞり返って『今に見ていろ』と言いました。その通りにあなたは高見沢からナンバーワンの椅子を奪い取った。」
なのに、と続ける副会長は眼鏡を直し、目頭を強く押さえたかと思うと四天王寺を軽く睨みつけた。
「野原晴彦」
副会長の口からでた名前に、一瞬四天王寺の眉間にしわが寄る。
「彼に対して、今のあなたに余裕があるとは思えません。何か問題でもありましたか?」
「…特にねえよ。あいつはすでに俺の下にいる」
にやりと笑う四天王寺に、副会長が驚いたような顔をする。
そうだ。何を気にすることがある。あいつは今、俺の下にいるんだ。生かすも殺すも、俺の意志一つ。こんなにも優位な立場にいるのを、何を危惧することがある?
これはただあれだ。あいつが、あんな風に笑ったりするから。安田にしか見せたことのないような顔で笑うから。
あと少し、という所で現れた千里のせいで、思い切り突き飛ばされた事を思い出す。そんなにもあの男に自分と一緒にいるところを見られたくなかったのか。
あの時に晴彦は見つかるとうるさいからだと言った。それは言及されることが煩わしいからじゃなく、自分といるところを見られてあいつに心配をかけたくないからじゃないのか。
そう考えるとむかむかする。やはり、副会長の言うとおり苛々しているらしい、と素直に認めた四天王寺は携帯を取り出してメールを打つ。
『今夜九時』
苛々させた原因を作ったやつに責任を取らせればいい。
送信の文字を確認して、携帯をポケットにしまいこんでその口元に歪んだ笑みを浮かべた。
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