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聞こえた声に目を開けてしまったのは仕方がない。それはここ最近ずっと毎日聞いている声だった。
「お、お試しでいいんです!一週間だけ…、それでだめなら」
「やめとけ。俺は優しくねえ。一週間、お前に期待を持たせるわけにはいかねえ。一週間つきあって、やっぱり無理でした…の方が後がつらいぜ?」
しばらく無言が続いたかと思うと、その場から駆け出す一人分の足音が聞こえた。
晴彦は身近で行われたこのやり取りにひどく驚いていた。告白に対しての、四天王寺の返答にだ。自分の知る四天王寺は、ひどく傲慢で自己中な人間であった。だが、今のやり取り。一見横暴で自分勝手な俺様発言のように聞こえたが、その声色は相手を労るように優しかった。
再び目を閉じようと少し寝返りをうつ。すると残っていたもう一人の足音がこちらに近づいてきたのがわかった。
案の定というか、寝返りをうった晴彦と茂み越しにばっちりとこちらを見ている四天王寺と目があったわけで。四天王寺は晴彦だとわかるとわかりやすく口元に笑いを浮かべた。
「なんだ…盗み聞きか?」
「結果としてそうなったことは認めるさ」
ごろん、と四天王寺に背中を向けて寝返りをうつと茂みを越えて四天王寺が隣に座り込む。
「焼き餅か、かわいいとこもあるじゃねえか」
「本気でそう思ってるなら病院へ行くことをお勧めするよ」
なにをどう取れば焼き餅になるんだ。
勘違いも甚だしい、と晴彦が目を閉じると四天王寺がさらさらと自分の髪を撫でる。その手に晴彦は閉じていた目を開けるとがばりと体を起こした。
余りに急に起きあがったもので、髪をなでていた手を宙に浮かせたまま目をガラス玉のように大きくしている四天王寺とばちりと目が合う。
「…どうした?」
「いや…、ぇ、あ、」
およそ晴彦らしくない言いよどみに四天王寺もらしくなくぽかんとしていた。先に我に返ったのは晴彦で、目の前の四天王寺を見て思わず噴き出した。
「…っぷはっ!は、ははっ!なに、お前…、は、あははっ!」
口元に手をやるが堪えきれないとでも言うように笑う晴彦に四天王寺はますます目を大きく見開いた。そして、はっと我に返り途端に舌打ちをする。
「なんだってんだ」
「くく…っ、や、悪いな。余りの間抜け面に思わず…っ、ふふっ、」
決まりが悪そうに頭をかく四天王寺に晴彦は口だけの謝罪をして少し深呼吸をした。
「えらそうにふんぞり返ったどや顔しか見たことがなかったんでな。そんな顔もするんだな」
「なん」
バカにされたのかと眉間にしわを寄せていつものように嫌みを言い返そうと晴彦を見て、四天王寺は言葉に詰まった。
柔らかく目を細め、くすくすと笑う晴彦。
初めて見るその表情に四天王寺は言葉をなくししらず晴彦の頬に手をやっていた。
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