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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




3

四天王寺が次に目覚めた時、晴彦は隣にいなかった。起き上がってリビングへ向かいどこにもその気配のない事になるほど、と思う。

必要以上に傍にいることはないということか。

コーヒーを淹れてソファに腰をおろし、忌々しいと若干思う気持ちをコーヒーと共に飲み込んだ。


その日、登校してから四天王寺はいつものように晴彦のクラスを覗きこんだ。自分の姿をみとめきゃあきゃあとうるさい小柄な生徒たちをちらりと横目に晴彦を探す。
晴彦はいつものように自分の席で文庫本を開いていた。

「よう、野原。気分はどうだ?」

にやにやとしながら近づき、前の席にどかりと座り込んで晴彦の机に頬杖をつく。本からちらりとだけ目線を上げた晴彦はすぐに視線を本へと戻し一枚ページをめくった。

「特に良くも悪くもないな。いつもとかわらないさ」
「そうか?」

本を読む晴彦の手に、つう、と指をたどらせると晴彦が怪訝な顔をして四天王寺を睨む。

「昨日は結構無理をさせたからな…。まだ疼くんじゃないのか?」

顔を耳元に寄せ、晴彦にしか聞こえないようにそっと耳打ちをすれば周りから悲鳴のような声が上がる。晴彦はうっとおしそうに手のひらで四天王寺の顔を避け、ため息をついてまた一枚ページをめくった。

「問題はない。それよりも今の行為で気分が悪くなったくらいだな」
「ははっ、なるほどな」

晴彦の返しにひどく楽しそうに笑う。

そうだ。そうでなければ面白くない。弱みを握ったからと言って自分に簡単に媚を売るような人間ではないからこそ興味が尽きないのだ。

授業が始まるまでの時間、たっぷりといつものように晴彦をからかってから四天王寺は満足げに教室をあとにした。四天王寺の去った後の教室では、晴彦に心配そうな視線を送るもの、恨みがましい蔑んだ目を送るもの、さまざまな視線を一身に受けるも平然と座る晴彦がいた。


「晴彦ちゃん、晴彦ちゃん。お昼ご飯食べに中庭に行かないかい。」

昼休み、千里がにへらと笑いながら誘いにきたのに晴彦は弁当を持って立ち上がる。

「高見沢はいいのか」
「うん、今日はなんか部活でミーティングがあるんだって」
「なるほど、一人ぼっちが寂しくて誘いにきたってわけだな」
「ちが、違うよ!もう、晴彦ちゃんと食べたいからに決まってんでしょーが!」

冗談を半ば本気にとらえてぷりぷり怒る千里に頬を緩める。

「うわ、あくどいニヒルな笑い!気持ち悪い!」
「お前のさっきのセリフの方がキモイ」

ぎゃあぎゃあとわめきながらも二人で中庭に向かう。
ほどよく木の繁る中庭は風通りがよく、木漏れ日が差し込んで気持ちがいい。中庭は学園でも定番のデートスポットでカップルが仲良くご飯を食べているのをよく見かける。腐男子である千里は元より、高校生ながら恋愛ゲームのシナリオを書く仕事をしている晴彦にとってもこの中庭は絶好のネタを拾う場所だ。


奥まった一角に腰を下ろしてたわいのない会話をしながら食事をする。しばらくすると千里が『BL探索!』と言って荷物をおいて駆け出した。いってらっしゃい、と手を振りごろんとその場に横になる。うとうとと眠りに落ち掛けたその時、自分の後方の茂みになにやら人の気配を感じた。

「…、でも…、」

声色や口調からすると、どうやら呼び出しての告白らしい。中庭ではよくあることなのだが、意図せず盗み聞きするような位置になってしまった。横になっていたために自分の姿が見えず、誰もいないだろうと思ってこの場を選んだのだろうと理解し、千里なら鼻血を出して喜んだだろうなと晴彦はなるべく気配を消して目を閉じた。

「俺は誰にも本気にならねえ。知ってんだろ?」

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