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3

「のあああああ!」
「うるせえ」
「ギャース!」

床をゴロゴロと転がり頭を抱えてもんどり打つ俺に向かってパソコンに向かいながら辞書を投げつけてくる晴彦。
視線は液晶から動かさないくせにそれは俺の顔面にヒットした。無駄にコントロールいいなおい!

「だって晴彦!あいつ、とんでもねえこと言うんだぜ!」

裏庭で高見沢から衝撃の告白を受けた俺は帰ってきてすぐに晴彦の部屋に転がりこんだ。あまりのショックに慰めてもらおうと嘘の涙を浮かべて泣きついたのに奴は
『コーラ振ってねえだろうな?確かめるからてめえのお宝本出せや』
と俺のお宝BL本に向かってふたを開けるからとおどしをかけてきたのだ。何でばれたし、と思いながら晴彦ちゃんに土下座する。

ちょっとだけいたずら心で振っただけなのに。くすん。

そんなことはどうでもいい!

辞書をぶつけられた顔を覆って俺は高見沢の事を思い出してまたごろごろともんどり打った。






「ふ、腐男子…?え…?」

『腐男子がいる限り男を好きになりたくない』

俺は内心ばくばくだ。だって腐男子なんだもん!お前、いたいけな腐男子の前でそんな嫌悪感丸出しな顔すんなよ!

「あいつらは自分の欲のために人を操ろうとする悪魔だ」

苦々しい顔をして腐男子を見つめる高見沢に、どきりとした。


中学生の時、高見沢には仲のいい友人がいたそうだ。その子は小柄でとてもかわいらしい、俺のカテゴリ分けによると小動物系受け君だったらしい。
そんな受け君には好きな子がいた。サッカー部の主将で、同級生の男の子。高見沢とも仲がよく、お互い言葉にはなかなかしないものの二人が両思いなのは誰の目にも明らかで高見沢は受け君の相談によく乗っていたらしい。

攻め君と受け君、高見沢はよく三人で行動していた。

そこに、腐男子が目を付けた。


そいつは、二人が両思いなのを知っていながら高見沢が受け君を好きだとこっそり噂を流した。それだけではない、攻め君にうまく近づき非常に口うまく高見沢と受け君の事について攻め君が不安になるようなことをそれとなく吹き込んだりしていたそうだ。

元々お互いの事を想いすぎるあまり想いを口にすることのできなかった二人。
特に不器用攻め君は受け君が高見沢の事を好きならばと思い、受けくんの幸せのために身を引いて二人のそばから離れてしまった。

腐男子の罠にはめられたなどと全く知らない受け君は、攻め君が自分の気持ちに気付いて嫌悪して離れていったと誤解。その後高見沢と自分の噂を耳にして攻め君にも誤解されてしまったと知った受け君はひどくショックを受け、不登校になってしまった。


高見沢は自分と受け君の事でそんな噂が流れていることなど全く知らなかった。

高見沢は受け君が不登校になった事を攻め君に知らせるために攻め君の所に駆け付けたその時に、腐男子が攻め君と二人でいた。話しかけようと近づいて聞こえた会話に、高見沢は動きを止めた。


『高見沢くんは今頃受け君の部屋で何してるんだろうね?』


攻め君にそう話し掛ける腐男子を見た高見沢は、少し前にたまたま通りかかった空き教室で腐男子が仲間であろう人間に話をしていた会話をふと思い出した。


『すれ違いで誤解、親友に受け君奪われ三角関係とか超おいしくない?』

それを聞いた時は何のことか全くわからなかった高見沢は、攻め君にあらぬことを吹き込んでいる腐男子を見た瞬間に全てを理解した。

高見沢は、キレた。

話しこんでいる二人に近づき、腐男子を殴った。その時に攻め君に誤解であること、受け君が不登校になった理由などをきちんと話し晴れて二人は恋人同士にはなれたものの、高見沢は校内での暴力行為で一週間の謹慎。

高見沢は、二人の一番近くにいながら自分のせいで二人を傷つけたことにひどく心を痛めた。腐男子のたくらみに気づかなかった自分を責めた。

それから高見沢の中で腐男子は最低人間にランクされてしまったのだそうだ。



「皆が皆、そんな奴らじゃないのに。確かに理想のカプのためには俺だって必死になったりするけどさ…」

その話を聞いた俺はコーラを何度も何度も落としたさ。だって俺は腐男子だ。それは高見沢にはまだ言っていなかった。それだけが唯一の救いかも知れない。

「クッソ、その時のクソ腐男子滅びろ!そして禿げろ!」

そんなクソみたいな腐男子の風上にも置けねえ輩のせいで高見沢があんなに男を拒絶するようになったんだと思うとはらわたが煮えくり返って仕方がない。


「晴彦ちゃん、どうしようか?」
「知るか」


容赦なく切り捨てる晴彦にさらに心をえぐられる。俺の萌えライフがかかっていると言うのになんて冷たいんだ!

「どうにかしようと思ってどうにかなるもんじゃねえだろ、人の心は。もしかしたらそのうち美女と野獣みたいに頑なな心を解かしてくれるヤツが現れるかもよ。」

画面から目を離さず、晴彦がぽつりとこぼす。
無駄にかっこいいな晴彦ちゃんよ!


そうかな。
高見沢が、いつか苦しげな顔をしながら…

『…好きじゃない、だなんて思いこもうとしても無理だった…!お前が好きだ…!』

「のおおおお!」
「だまれ」

想像してあまりの胸きゅんにまた床でもんどり打つと今度は目覚まし時計を投げられた。
固い物はやめて!

「イイ。それイイよ、晴彦!うはー!よし、こうしちゃおれん!帰って筆にしたためねば!」

次のコミケの新刊のネタにしよう!

「ちさと」

がばりと起き上がり部屋を出ようとした俺を晴彦が呼び止める。あらなにかしら?まさか京也様クッションにちょっとだけコーラこぼしちゃったのバレた?

「お前がショック受けたのはどっち?」
「え?」

晴彦の問いかけに意味が分からなくてきょとんとする。

「答えなくていいよ。今の俺の質問だけ覚えといて」

そう言ってひらひらと手を振る晴彦に首を傾げながら部屋を出ようと背中を向ける。




「無自覚一途受けぷまい」




そうつぶやいた晴彦になんて気付かないまま俺は部屋を後にした。


そして、次の日の朝に届けられたクリーニング代の請求書に泡を吹いてひっくり返った。

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