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「#幼馴染」のBL小説を読む
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6

その次の日、晴彦はいつもと同じように教室で本を読んでいた。今日は千里は高見沢と一緒に帰ると言っていたので一人のんびりと読書にいそしんでいる。誰もいない教室にページをめくる音だけが響く。

ぱらり、とまた一枚めくって、ふいにその本が目の前から消えた。晴彦は視線を上げずに目を閉じ、はあ、とため息を一つついて腕を組んだ。

「何の用だ」
「つれねえな、顔ぐらい上げろよ。それとも無理やり上げられたいか?」

目を閉じ、下に向けていた顎に指が添えられ、くい、と上を向かされた。反射的に目を開けて、目の前にいる人の悪い笑みを浮かべた男にまたため息をつく。

「…何の用だ、四天王寺。」

名前を口にしながらなぜこの男はこんなにも自分に構うのだろうかと晴彦は不思議で仕方がなかった。きっかけはわからなくもない。自分を超える学力を持つ者がいて、それを目にしてみたいと思う好奇心だろう。だがそれ以外自分には特筆すべきことなど何もない。
それ以外に四天王寺が自分に近づく理由があるとすれば誰か教えていただきたいものだ。

「愚問だな。てめえに会いにきたに決まってんじゃねえか」

にやりと笑いそのまま顔を近づけてきた四天王寺を避ける間もなく晴彦の唇は四天王寺のそれでふさがれていた。

「…昨日と同じか。てめえは何を考えてやがるんだ?」
「それはこちらのセリフだ。昨日から続けてお前は一体何がしたいんだ。遊びたいならよそを当たれ」
「あいにく俺が今遊びたいのはお前でな」

幾人もの人間を落としてきたであろう色気をたっぷり含んだ笑みを浮かべ、四天王寺の指がいやらしく唇をなぞる。


…ほんとにたちの悪い俺様だ…。


そっと手を離させて本をカバンにしまう。そして、手に持ち立ち上がって歩き出す。



「安田千里」



教室の扉に手を掛けた瞬間を見計らって、四天王寺が千里の名前を口にする。怪訝な顔をして振り向けば、四天王寺は楽しそうに口元を歪めていた。

「同じクラスの高見沢と付き合ってんだってな?」

扉に掛けた手をゆっくりと外し、四天王寺の元へと戻る。はあ、と一つため息をついて両腕を四天王寺の首へと回し、晴彦は少し背伸びをして四天王寺に口づけた。




「ん…っ、ふ、…」


くちゅ、と濡れた音が耳を犯す。後頭部に添えられた手は逃げることを許さないとばかりにしっかりと固定され、腰に回された腕も少しの隙間さえないほどに体を密着させるよう力を込められている。

しばらくしてようやく解放された口から、足りない酸素を吸い込むとけほ、と小さくむせて少し荒くなった息に肩をあげた。

「慣れてねえな」
「当たり前だ」

けほけほとむせながら涙目で四天王寺を睨みつけると楽しくてたまらないと言う顔で笑う。髪を乱暴に掴まれ、無理やり顔を上に上げられイヤでも視線を合わせると四天王寺はふん、と鼻で笑った。

「利口な奴は嫌いじゃねえぜ」
「…、っ、」

その台詞をはいた後に四天王寺が何かを見つけたかのように少し目を大きくしたのと、晴彦がすぐにその顔に笑みを浮かべたのは同時だった。

「そりゃ、光栄…」

どこか冷めたような笑みを浮かべながら髪を掴む四天王寺の手を払う。ぐいと口元を拭い抱きしめられたために乱れた制服を正す晴彦を四天王寺はただ見つめた。

「携帯を出せ」
「自分でやるからお前が貸せ」

晴彦が身支度を整えるのを黙って見ていた四天王寺が支度を終えた晴彦に向かって手を伸ばす。晴彦は逆に手を伸ばしすでにポケットから出して用意していた四天王寺の手に握られている携帯を奪うと勝手に操作し自分の連絡先を交換した。
素早く作業を終え携帯を返すと四天王寺は画面を操作しそこに晴彦の名前があるのを確認してあくどい笑みを浮かべた。

「部屋まで送ってやるよ」
「いらん世話だ。子供じゃないんだ、一人で戻れる」

外を見るとすっかり日が暮れて電気がついているとはいえ寮に向かう中庭はひっそりとしている。もう用は無いとばかりにカバンを掴み教室からそそくさと出ようとする晴彦をもう一度引き寄せ、口づけた。

「素直じゃねえな」
「…!はな、せ」

頬を撫でる四天王寺の手をぱしりと払うと今度こそ教室の扉を開ける。そして、一瞬だけ四天王寺を振り返り、晴彦はそのまま教室を出て行った。

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