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「やっぱここにいた!聞いてくれよ!さっき風紀委員長が平委員の首根っこ掴んで引きずって連れてったんだよおおお!」
「ちさと」
晴彦を見つけるなり、飛びついてぎゃあぎゃあとわめきたてる。
千里…。千里だ。
自分を包む温もりに段々と体の震えが落ち着いて来るのが分かった。
未だしがみついてびーびーとうるさい千里の背中にそっと手を回し、シャツを握りしめる。
「晴彦?―――ぎゃん!」
「暑い」
そして、ぐいと思い切り引っ張って引きはがすと蹴り飛ばして千里を転がした。
尻をさすりながら『ひどい!』と文句を言う千里をじろりと一瞥して立ち上がる。軽くズボンの汚れを払うと同じように千里も立ち上がった。
「よくわかったな」
「あ、うん。晴彦、俺を待つって言ってくれた時は何があっても絶対待つって行った場所から動かないのに、今いなかったから。そんときは大抵ここなんだよね」
「ストーカーか」
「ひどい!」
さめざめと泣き真似をする千里を見て晴彦が口元をゆるめる。出口に向かって歩き始めると声をかけずとも千里は晴彦に続いてごく当たり前のように歩き出す。
「教室に行ったのか?誰も…」
いなかったか?と続けかけてふと口を閉じる。自分が質問しようとした内容は、知ったとしてもなんの意味もないことだ。
「そうそう、教室に行ったらさぁ、途中で俺四天王寺会長とすれ違ったんだよねー。いっつもこっそり覗き見してるけど間近で見るとすっげえイケメンだよな!
…でも、なんか元気なかったよ。疲れてんのかなあってちょっと心配んなったけど…って、晴彦?」
「なんだ」
ぺらぺらと話す千里がふいに首を傾げて晴彦の顔を覗きこむ。
「…なんかあった?」
少し眉を寄せて問うてきた千里に晴彦はどきりとした。そうなのだ。千里は自分の感情には疎いくせに晴彦のことを異様に敏感に感じ取る。
そういうお人好しすぎるところが、冷めた自分にはないものだ。晴彦はほんの少し口角をあげて、千里の肩を軽く叩く。
「教室に行ってここに俺がいるのがわかっているくせにカバンを持ってこないところが気が利かないと思ってただけだ」
「う…!あ、あれだあれ!晴彦ちゃんと一秒でも長くいたくてわざと?みたいな」
「キモイ言い訳をするな」
二人で歩きながら教室に向かいながら、いつものように返して笑う。辛辣!だのなんだの騒いでいた千里がふと晴彦の服の裾をちょいちょいと引き、顔をのぞき込んだ。
「なんだ?」
「…あのさ、なんかあったら言えよ。俺、なんもできないかもだけど、絶対晴彦の味方だから。晴彦のためなら、なんでもするよ。」
真剣な眼差しでそう言う千里のおでこに、強烈なデコピンをかます。
「いてえ!」
「そう言うキモイセリフは愛しのたかみんにでも言って上に乗ってやれ」
「なっ、ななな、何て事言うの晴彦ちゃんたら!」
真っ赤になってえっち!ドS!とぎゃあぎゃあわめきたてる千里に背をむけて笑い、二人並んで教室へと向かった。
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