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一人教室に残された四天王寺は先ほど隠し撮りをした晴彦とのキスシーンを見ていた。四天王寺は自分の人気を理解している。この学園において生徒会長である自分は全校生徒からカリスマとも呼ばれるほどの人気を誇り、親衛隊だって学園一の規模を持つ。
そんな四天王寺とのキスシーンが学園内に出回れば、たとえそれが四天王寺から仕掛けたものであったとしても糾弾され制裁を与えられるかもしれない。いわば全校生徒を敵に回すも同然なのだ。
四天王寺は本気でこの写真を出回らせるつもりなどなかった。ただ、晴彦の表情を変えてやりたかったのだ。興味があるのは間違いない。何に対しても全く動じることのない晴彦が面白くて仕方がない。全く考えの読めない相手など初めてなのだ。だが正攻法で手を付けさせてもらえるような輩でもないこともこの数日で重々承知していた。
自分でも卑怯だとは思いながらも、この脅しにひっかけ一度相手をさせてみようと思ったのだ。
所が、結果は予想していたものとははるかに違っていた。誰だって、こんな写真が出回れば自分の身を案じてこちらの要求に乗ってくるものだと思っていた。
晴彦は違った。
表情一つ変えることなく、好きにしろと言ったのだ。
『そんな画像一枚で回ったところでどうなることもない』
あれはきっと本心だ。この画像が出回ったところできっと晴彦は周りの糾弾や制裁など歯牙にもかけないのだろう。
「…くそ、」
仕掛けたのは自分の方なのに、優位に立つどころか完膚なきまでの敗北を味わった。
画像を映したままのスマホを握りしめ、四天王寺は悔しそうに舌打ちをした。
晴彦は、一人廊下を歩き辿り着いた図書室で一番奥の棚にもたれしゃがみ込んでいた。
もう放課後遅くなので誰もいない図書室は電気が消え、窓から差し込んでいた夕日の明かりさえも届かなくなって薄暗くしんとしていた。ぼんやりと天井を眺める。
『大人しくイイコにしてな』
突如先ほどの四天王寺のセリフが脳に甦り、きん、と耳鳴りがしたかと思うと背中がひやりと冷えたような感覚が走る。
「――――――…っ!」
晴彦は耳を両手でふさぎ、ぎゅっと目をつぶって小さく蹲った。
違う。違う、違う。四天王寺は、あの人じゃない。
ただただ蹲り、自分の感情が落ち着くのを待つ。だが思いとは裏腹に晴彦の心臓はどくどくと急激に鼓動を速め、上手く息を吸うこともできない。
くそ。くそっ、くそっ!
ハッ、ハッと段々呼吸が荒く短くなる。目の前がぼんやり霞み、自分が今どこでなにをしているのかわからなくなる。このままじゃヤバい、そう思ったその時。
「はーるひこおおおお!」
ばたーん!と言う壊れんばかりの勢いで図書室の扉を開き、自分の名を叫びながら千里が現れた。
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