3
「は?なに…」
払い落とされた手に対して非難の目を向け、文句を言おうとして四天王寺が動きを止める。
―――なんだ、この目は。
顔はいつもと変わらない。飄々として何を考えているのかわからない、そんな顔だ。だが、晴彦の目が。目だけ、今までに見たこともないようなはっきりとした嫌悪の色を宿していた。それはただ嫌悪と言うには軽すぎるかもしれない。
それほどに激しい感情をのせた目をしていた。
「―――そのセリフは二度と口にするな」
瞳に炎を宿したまま、晴彦が低い声で四天王寺を威嚇する。当の四天王寺は、それに怯むどころか―――――
「失礼する」
「待てよ」
くるりと踵を返して鞄をとり、四天王寺を見ようともせず立ち去ろうとする晴彦を四天王寺が引き止める。
「これ、なんだ?」
振り返った晴彦の目の前で自分のスマホを軽く振る。
そこには、先ほどのキスシーン。
「いい感じに撮れてんだろ?こうして見ると一枚の絵画みたいでなかなかいいじゃねえか、なあ?」
にやにや笑いながら画面を指でなぞる。その次に四天王寺が言わんとする台詞がわかりやす過ぎて晴彦はテンプレだな、と思った。
「これを学校のラインで流したら…どうなるだろうな?」
四天王寺の指先が、晴彦の頬をなぞり形のよい唇へと添えられる。上下の唇を、その形を確かめるかのごとく四天王寺の指がゆっくりとなぞっていく。
勝ち誇ったような顔がゆっくりと近づき、あと数センチ、と言う所まで迫る。
「どうもならないさ」
全く顔色一つ変えることなく、晴彦が吐き出した言葉に表情を変えたのは四天王寺の方だった。
「は…?」
「そんな画像一枚学校に出回った所でどうもならない、と言ったんだ。流したいなら勝手に流せ。」
そう言うと今度こそ晴彦は四天王寺から離れ、教室を出て行った。
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