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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




野原晴彦と四天王寺那岐

『腐男子だって恋をする』の晴彦のお話。


このお話単品でも読めますが、先に『腐男子だって〜』をお読みになられた方がより登場人物についてわかりやすいかと思います。
※途中18禁描写が入ることがあります。

腐男子だって恋をするの中の晴彦のイメージを崩されたくない方はお読みにならない方がよろしいかもしれません。

以上の点をご了承くださいました後、どうぞお進みくださいませ。


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『いい子で待ってろよ』



ああ、待つよ。いつまでだって待ってるよ。だからお願い、帰ってきて―――






ピピピピッ、ピピピピッ

―――――カチリ。

鳴り始めてきっちり二回。指を伸ばして目覚ましを止め、ベッドから降りて洗面所へ向かう。顔を洗ってパンを焼いて、片付けて歯を磨いて制服を着て。全ての準備が終わるのが朝の8時。いつもと同じ変わらない朝。

「行ってきます、京也様」

大事な大事な写真立ての写真に向かい恒例の挨拶をして学校に向かう。野原晴彦(のはらはるひこ)17歳。

彼は、腐男子である。




「おっはよ〜!晴彦!聞いて聞いてよ!朝から俺ってば激萌えカプ発見!うっひゃー!」
「おはよう、千里。目が血走ってるぞ。気持ち悪い」

朝から異様なテンションで駆け寄ってきて鼻息を荒くしているのは安田千里(やすだちさと)。晴彦と同じく腐男子で高校での晴彦の唯一無二の親友と言っても過言ではない。


千里とはこの高校で初めて出会った。出会いは中庭、茂みにしゃがみ込んでくふくふ笑っている千里を見つけたのが始まり。

『それ、京也様モデルだろ?』

晴彦と目があった瞬間に、晴彦の掛けているメガネを見て千里がそう言った。
意気投合した、とは言い難い。というのもその頃の晴彦は世界のすべてを拒絶するかのごとく周りに興味がなかった。千里だって例外ではない。だが、なにがどこをどうして気に入ったのか千里は無視をする晴彦を見かけるたびに話しかけクラスを知ればふらりと教室にやってきてと自然な距離感で晴彦のそばにいた。

千里は冬の凍てついた大地をゆっくりと溶かす春の日差しのように、当時凍てついた晴彦の心を自然と溶かし気がつけばこの位置にいた。

晴彦は、千里でなければ自分は受け入れてはいなかったであろうと思う。クラスに、友人がいないわけではない。だが、自分が一番自然体でいられるのは千里の前でだけ。

千里は晴彦の中で特別な存在となっていた。




「よう、相変わらず無愛想な面してやがんな?」

次は移動教室なので千里と別れ(追い出し)視聴覚室へ向かう途中、にやにやと笑いながら尊大な態度で話しかけてくる男がいた。


四天王寺那岐(してんのうじ なぎ)。晴彦の通う学園の、カリスマとも呼ばれる生徒会長である。

「あいにく愛想を振りまく必要のあるような相手がいないもんでな」
「…ここにいるだろう?」

表情を変えずにそう吐き捨て通り過ぎようとする晴彦の腕を掴み、肩に手を回して引き寄せる四天王寺の顔をうっとおしそうに睨むと四天王寺はさも楽しそうに晴彦の耳元に口を寄せ吐息を吹き込みながら囁いた。

「今夜、また部屋に来い。…待ってるぜ。」

晴彦の耳を甘噛みしてそう囁くと、後ろから来た可愛らしい男子生徒の肩を抱いて去っていった。それをうっとおしそうに片手で拭い、何事もなかったように視聴覚室へと向かい、今晩は眠れそうもないなとため息をついた。



『お前が野原?胡散臭そうな野郎だな』

今までなんの接点もなかった四天王寺という男が、突然晴彦のクラスに訪ねてきたのは2カ月ほど前のことだ。
晴彦はこの学校始まって以来、初の全教科満点で入学、それ以後のテストも全て満点と言う驚異の記録を叩き出した。四天王寺は自分を越える学力を持つ人間を初めて知り、どうやらどんな男であるかを見に来たらしい。

『そりゃどうも』
『…ほめてる訳じゃねえことはわかってんだろうが。バカにしてんのか?』


晴彦の返しが気に入らなかったのか机に腰掛けずい、と顔を近づけ低い声で脅しをかけるように言う四天王寺に晴彦は心底興味がなかったしうっとおしいと思っていた。賢い人間ならば、適当におだててへつらって相手に優越感をもたせて帰ってもらっていただろう。だが、晴彦は賢くはあったが人間としては賢くはなかった。

『バカにされたと思うならそうなんじゃないか?』
『…なんだと』
『俺が返した受け答えに大した意味なんざない。ようは受け取る側がどう受け取ったかが答えになるんだ。お前は自分がバカにされている気になる受け取り方をした。ならバカにしたが正解でいい』

別に相手の怒りを煽ろうとしたわけではない。思ったことをただ素直に口に出しただけ。

すい、と横をすり抜け廊下を歩く晴彦の後ろ姿を四天王寺はぽかんと口を開けて見ていた。


その翌日から、四天王寺はことあるごとに晴彦の前に現れ、ふんぞり返りながら満足するまでイヤミを言うようになった。

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