×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




8

高見沢からすべてを聞かされた俺は何も言えなくなって俯くしかできなかった。

「安田?」
「や、ちょ…見ないで」

―――それしかできるわけないじゃん!

真っ赤な顔を見られたくなくて、隣に座って顔をのぞき込もうとする高見沢の胸を手で押して必死に下を向いて顔を隠す。
だって、だって、そんな風に言われたら。

弁当を食べたとき、思ったんだ。高見沢の味に似てるって。
メモを見たとき、思ったんだ。高見沢の字に似てるって。
ストラップのイニシャルを見たとき、思ったんだ。俺のイニシャルなんじゃないかって。

うぬぼれちゃいけないと思いながら、そうあって欲しいと願っていたことが現実に叶うだなんて、思ってもみなかった。


赤い顔を必死に隠そうとしてるのに、高見沢はまるでそれを見せろとでもいうように俺の両頬をその手で挟み、上を向かせる。


「安田、かわいい」


そんでもって、満面の笑顔でちゅっちゅちゅっちゅ顔中キスをしてきた。

「か、かわいくなんか…っ、ん、」

反論しようとした俺の口を、啄むように口づけて言葉を奪う。優しく心底愛おしいとでもいうような口づけに俺の心臓はドキドキと高鳴りっぱなし。しばらくして、可愛らしいリップ音を立てて高見沢が離れた途端に俺は…

「…安田?」
「ふ…、ぅ…っ、」

ぽろぽろと、泣いてしまった。


涙を流し肩を震わせる俺に、高見沢がひどく慌てておろおろと顔を覗き込んだり頭を撫でたり。『嫌だったか』と泣きそうな顔で言う高見沢に、ぶんぶんと首を横に振るとひどくホッとしたため息をついた。


「ごめ…、だって、だって…、俺、」


嬉しくて。


高見沢を傷つけたのに。そんな俺を責めずに、俺が言った憧れることを全て、俺のために実践してくれるだなんて思わなかった。



『浮気攻めは嫌いだがな、ハピエンは好きなんだ。お前もそうだろう?』


晴彦にそう聞かれた時、理想のBL的展開を話ながら俺はそれを全部自分に当てはめていた。付き合ってもいないくせに、嫌われるようにし向けたのは自分のくせに、俺はそれを話ながら高見沢がそうしてくれている所を妄想しながら話してた。



そんなことは、自分の夢でしかないと思いながら。




ほっとしたように優しく微笑んで、俺のおでこにキスをして優しく抱きしめてくれる高見沢の背中に、そっと手を回す。

「安田…、愛してる。お前が何を好きだって、関係ない。お前が望むならお前の好きなシチュエーション、全部俺が叶えてやるから。もう、我慢すんな。俺のために自分を犠牲にするとか二度とすんな。」
「う、ん。うん…っ、」

ぎゅう、と高見沢の制服を掴み、胸に顔をぐりぐりと押し付ける。

久しぶりに嗅ぐ高見沢の匂いに、声に、温もりに、頭のてっぺんから足の先っぽまでが甘く痺れる。


「高見沢、高見沢。好きって言っていい?俺も、お前に言ってもいい?」



ずっと、ずっと、高見沢が羽曳野の元へ行ってしまってから言いたかった言葉を、全部。
許されるだろうか。

「いいよ。つか、聞きてえな。言ってくれる?」

優しく微笑まれて、俺はまた涙をボロボロとこぼしてしまった。

「高見沢、好き。ご飯一人で食べるの、寂しかった。おいしくなかった。羽曳野んとこに毎回高見沢が行っちゃうの、寂しかった。お姫様抱っこ、俺もしてほしかった。い、一緒に、帰ったり、したかった。
高見沢が好きだって、言いたかった!…っ、ふえ…っ、好き…っ、も、だれんとこも、行っちゃやだ…!ずっとそばに、いて…っ!」

泣きながら隠していた思いのたけをぶつける俺を、高見沢は真っ赤になって抱きしめて、


「お前…、まじたまんね。

全部、全部してやっから。誰んとこにもいかねえ。お前だけだ。」


そう言って、両頬を挟んで口を塞いだ。

[ 38/81 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]

top