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6

机を片付け終えた高見沢は、その日1日静かに時を待った。


やがて昼休み、待ちに待った携帯が着信をつげる。
千里を連れ出した晴彦から、高見沢へ連絡が入ると高見沢は一枚の写真を大事にポケットにしまい、中庭に向かった。


晴彦と決めたベンチに座り、再び連絡を待つ。しばらくして携帯が震え、一通のメールを確認する。

『斜め後ろ』

読んだ瞬間、どくんと心臓が跳ねる。振り返りたくなる欲求を必死に堪え、そっとポケットに手を入れる。
震えているのがバレませんように、と内心ばくばくしながら大事にしまった写真を取り出す。それは、同室1ヶ月記念!とふざけて二人で撮ったものだ。ポケットから取り出したそれに、そっと口づける。そして、何事もなかったかのようにまたそれをポケットに直してベンチを立ち、振り返らずにその場を去った。

やった、やった。

見ていただろうか。千里は、どう思っただろうか。バクバク鳴る心臓を片手で押さえながら、急いで今度は特別室へと向かう。特別室の中に入り、教科書のしまわれた机に向かい写真と同じくポケットに忍ばせていたメモを取り出す。教科書の一番上、取り出した時にすぐに見つかるようにそれを置き、足早に特別室を出た。

その日、部屋に戻った高見沢はネットで注文した手作りのストラップのキットを組み立てた。革のストラップに、好みの文字のパーツを付けるというシンプルなもの。

高見沢が選んだ文字は、『T』と『Y』。

『安田千里』

それを自分の携帯につけるだけで千里と繋がっているような錯覚に陥った。

次の日も、高見沢は中庭に出て晴彦からの連絡を待った。ところが、一人中庭にいるときに見知らぬ可愛らしい男の子が近づいてきたのだ。同時に晴彦から、中庭へ散歩に出たと連絡が入る。名前を呼ばれて、用事があると断ろうとした時に自分の後ろからがさりと物音がした。ちらりと気付かれない様に目だけ振り向くと、慌てて頭を下げる千里が見えた。

そちらに気を取られた時に、男の子は自分に対して告白をしてきた。


『…ずっとずっと、好きな子がいるんだ。』

聞いてくれ、安田。今はまだお前に直接言えないけど。

そんな思いを抱きながら、高見沢は、後ろで隠れる千里にも聞こえる様に自分の気持ちを口にした。
やがて男の子が去ってから、高見沢はまたポケットから写真を取り出す。

「…会いたいよ。」

後ろにいる千里を、正面から見たい。必死にこらえながら写真の千里にキスをする。そしてまた何事もなくその場を去って、特別室に向かいメモを忍ばせた。


次の日には、晴彦から千里が散歩に行かないと言ったという連絡が入った。高見沢はそれを聞いて、自分の行動に千里は困惑してしまったのではとひどく焦ったが、一つの作戦がだめになったくらいで落胆していてはこの先千里を振り向かせることなどできない、と自分にできる事をやり遂げようと決めた。


千里が散歩に行かなくなってからも、メモ書きだけは必ず入れた。
毎日毎日、たわいのない一言。千里がどんな風に受け取り、感じているのかはわからない。ただのストーカーのように思われているかもしれない。不安と、か細い糸で繋がっているという喜びと。日に日に募る思いを、メモに込める。晴彦に、どんな様子かを訪ねることはしなかった。




そして、運命の日が訪れる。

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