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腐男子だって恋をする

校庭で、熱烈な愛の大告白を受けた俺はチャイムの音で我にかえった。


『おめでとー!』
『よっ、ご両人!』


我に返ると同時に校舎から覗いている群れに気付き、真っ赤になる。

ここ、学校で、授業前じゃん…!

大観衆のはやし立てる中、真っ赤になって俯く俺とは逆に高見沢は満面の笑顔で校舎の皆に手を振っている。あほか!

「た、たかみざわ、き、教室にもどろ…?」

いたたまれなくなってくいくいと高見沢の制服の裾を引き、俺より高いその顔を下から目だけで見上げると、高見沢は一瞬目を見開いた。

「了解、お姫様。」
「う、うわああああ!」

そして、屈んだかと思うとふわりと俺を抱き上げてスタスタと歩き出した。


―――――お姫様抱っこでな!!


「たっ、高見沢、やめ…!」
「やめない。してほしかったんだろ?ほんとは、あの時。」

前を向いたまま歩き高見沢の顔は、笑顔だけど悲しそうだった。
あの時…。
それはきっと、羽曳野と俺がぶつかった時の事だろう。

「俺は、したかった。ほんとは、羽曳野よりも誰よりも、お前を抱き上げてやりたかった。だけど、その時の俺はバカな奴だったから。自分からお前にやろうとしなかった。後悔してる。だからやりたいこと全部、自分からすることにしたから。だから、下ろさねえ。わかったら大人しく可愛らしく首にでもしがみついてやがれ」

さっきの表情から一転、にやりとオスのフェロモンをにじませた笑いを見せた高見沢に俺は真っ赤になって、言われた通りにおずおずと首に手を回した。

「…っ、ほん、と…無自覚って怖ぇ…」

高見沢がポツリと言ったワードは腐男子用語なのによく知ってんなあ〜って感心した。

校舎に入ると、すぐの階段のところで晴彦が手すりに肘をつき頬杖をつきながらニヒルな笑いを浮かべてこちらを見ていた。

「協力ありがとう」
「どういたしまして」

高見沢と二人してにやりと笑い言葉を交わす晴彦に、きょとんとした顔を向けると『キモイ』と言われた。相変わらず辛辣だわ。

「晴れて両想いで幸せ真っ只中のとこ悪いがな、お前らこのまま特別室行きな。」
「ええっ!なんで!?」
「いや、校内の風紀を乱して授業の妨げをしたから?」

けろりとして答える晴彦に口答えできずに、うっとつまる。確かにそうだ。もうすぐ授業が始まるって朝っぱらからドラマのようなことしてんだもん。

「まあ、仲良くそこで自習してな。」

そう言って晴彦はひらひらと手を振り、階段を一人上がっていった。



特別室につくと高見沢は椅子に座り、お姫様抱っこのままだった俺を前に向けて膝の上に座らせた。そして、後ろから腰に手を回してぎゅうと抱きしめてきたのだ。

「ななな、なにしてんの!?」
「いや、スキンシップ?」

何言っちゃってんのこの人!特別室で二人きりとはいえ、先生来るんだよ!?

「心配してるみたいだけどな、先生来ないから。あいつがそうしてる」

あいつってのは十中八九晴彦の事だろう。なんで、という意味を込めておずおずと後ろに振り返ると高見沢がほっぺに軽くキスをした。

「ちゃんと、説明したくて。すぐに二人きりになれる場所を用意してもらったんだ。このまま二人でフケルこともできたけど、それじゃあ校内の連中に見つかるかもしれないし。特別室行きってことになれば、他の奴らにも一応の示しがつくだろ?」

それって、ズルくないですか。
そう思ったけど、口にはできない。だって、ちゃんと話を聞きたかったのは俺もだから。俺が、羽曳野のしたことは全部俺が指示した事だと言ったあの日から、今日にいたるまでに何があったのか。


俺に幻滅したんじゃなかったの?

俺の事、軽蔑したんじゃなかったの?


さっきの大告白で有頂天になってたけど、今こうして冷静になって見ると一気に不安が襲ってくる。
膝の上で後ろから抱きしめられながら体を固くしている俺を、高見沢は大丈夫だとでもいうようにゆっくり前に回している手でお腹をさすってくれた。

そしてそれから、俺が晴彦の部屋に逃げてこもっていた間の事を話してくれた。

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