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校庭を覗き、俺はある一点を見て動きを止めてしまった。
この広い校庭の、ど真ん中。
「安田―――――――!!」
それは、先ほどまでスピーカーから聞こえていた声。
口の横に手をやり、力の限り自分の名を呼ぶ、
「たかみ、ざわ…」
やっと発した声は、誰の耳にも届かないほど小さいのに自分の耳にはやたらに響いた。
口がからからになって、それ以上言葉がでない。教室の窓の桟に置いた手で、ぎゅっと掴んでいる桟を握り締める。周りの皆もそれぞれが教室の窓から校庭をのぞき込んでいる。それもそうだろう、あの放送は全校内に流れたはずなのだから。
なんで、どうして、なにをして。放送室にいたんじゃなかったのか?
そんな疑問符ばかりが浮かぶ中、高見沢がその場にひざを折って座り込んだ。
――――まさか。
「安田、今までごめん!これが、俺の本当の気持ちだ!」
そう叫ぶと、その場で土下座をした。そして、高見沢の後ろに現れた、校庭に書かれた大きな文字。
『好きだ』
高見沢の描いたであろう文字が、水のように俺の体に沁み込んで。自分が腐男子だとか、高見沢と羽曳野の事だとか。そんなこと考えられなくなって。
掴んでいる桟から手を離すその動作が、やけにスローモーションに見えた。身を翻して、教室から飛び出したと同時に後ろから沸き上がる歓声。
走って、走って、転びそうになるほど走って。
「高見沢…!」
俺の声に顔を上げて立ち上がったあいつの胸に、両手を広げて駆けていく。
同時に、高見沢も両手を広げて。
俺より背の高いあいつの腕の中に、飛び込んだ。
「たか、み…っ、たかみざ…っ、」
泣きながら、必死に高見沢の名を繰り返して呼ぶ俺の頬を、高見沢が両手ではさんで無理やり上を向かせた。
やだ。涙でぐちゃぐちゃでひどく歪んでるこんな顔、見せたくない。
恥ずかしくて俯こうとする俺の顔を高見沢は意地でも上に向かせたまま。
「安田、ごめんな。しなきゃいけない話は沢山あるけど、今はこれだけ言わせて。
―――愛してる。」
「…っ、おれ、も…っ!俺も、たかみざわ、好き…っ!好きぃ…!」
だって、俺が言った。
『放送で愛の告白とかもいいよね。俺そんなんされたら何でも許して受け入れちゃうよ』
泣きながら、必死に『好き』を繰り返す俺に、高見沢はとろけそうな笑顔を見せて。
俺の頬を挟んだまま口づけた。
途端に沸き上がったさっきよりも大きな歓声は、俺と高見沢を包み込み、祝福のファンファーレのように空中に響き渡った。
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