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5

四つん這いの格好のまま固まっていると、晴彦が現れて俺の姿に怪訝な顔をした。放心していた俺の尻を晴彦が蹴り上げてようやく意識を取り戻す。ひどいわ晴彦ちゃん!四つに割れちゃったらどうすんの!

「なにがあった?」
「いや…なんも。」

明らかに裏がえった声で答えたにも関わらず、晴彦はそれ以上詮索してこなかった。





晴彦と合流して教室に戻り、机に教科書を出してまた無記名のメモに気付く。

『今日の体育、バスケしたんだけどなんかあんまり動けなくてさ。運動は得意だったはずなんだけどなあ。昼飯前だから腹減ってたのかも。お前はちゃんと飯は食ってるか?体だけは大事にしろよ』

俺はまたそれを手帳に挟んだ。


その後の授業なんて全く頭に入らなかった。晴彦が迎えに来て、なんか話してた気がするけどよく覚えてない。寮部屋に帰ってきた今も、俺は晴彦が別の部屋でシナリオのあらすじを書くからと出て行ったあとの寝室でベッドに突っ伏していた。


もうずっと思いだすのは、昼に高見沢の携帯についていたストラップ。


『T.Y』

と文字を組み合わせたものがついていた。


初めは、高見沢の名前のイニシャルかと思った。でも、高見沢の下の名前は春樹だ。羽曳野も、下は悠人だから一文字あわない。
じゃあ、一体誰の。それか、あれだろうか。誰かが自分のイニシャルのストラップをつけてほしくてプレゼントしたんだろうか。いや、高見沢はそんな相手に期待を持たせるようなまねはしないはずだ。
そんなことを考えながら、頭の片隅で一つ浮かんでいることを必死に消す。

浮かんでいることを消したつもりが、今度は高見沢が告白を断った時のセリフを思い出す。


『ずっとそばにいたんだけど』
『傷つけて、離れられちゃって』


「なんなんだよ…」

泣きそうになってうつ伏せになり、シーツをぎゅっと握りしめる。もういやだ。自分で自分が恥ずかしい。忘れようとしてるのに。諦めたいのに。そのために踏み出した一歩のはずが、この二日で目にした出来事で

『もしかして』

なんて淡い希望を胸に灯す。それと同時に、胸の底から湧き出る

『おこがましい』

という気持ち。

写真、ストラップ、無記名のメモ。高見沢の言葉。

ぐるぐる、ぐるぐる、感情の渦に飲み込まれる。いつの間にか眠りに落ちた俺は、久しぶりに高見沢の夢を見た。
夢の中の高見沢は、以前と変わらない笑顔で俺の名前を呼んだ。夢だ、と思いながら返事をして、少し泣いた。





一週間が経った。
あの日から俺は、晴彦に誘われても断り、校内をふらつくのはやめた。

初めて断った日に晴彦はちょっと渋い顔をしたけど、すぐに『…そうか』と納得してくれてそれ以上は無理に誘いだそうとはしなかった。

その間も、無記名のメモは毎日あった。俺はそれがあるのを期待するようになった。一日一日溜まっていくそれを宝物のように手帳に入れた。



「晴彦、俺、自分の教室に戻るよ。」

夜、晴彦の部屋のリビングで寝る前に呼び止めた。晴彦はそれを聞いて、ちょっと驚いたような顔をしたけどすぐに真剣な顔になって頷いた。

「決めたんだな?」
「うん。」

迷いなく頷けば、晴彦はわかった、とだけ言った。


長く甘えさせてもらったんだ。いつまでも、逃げてるわけにはいかない。いい加減向き合おう。


自分の気持ちと、


―――――高見沢と。

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