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晴彦の命令通り、俺は全ての授業を特別室で受けることになりました。
特別室は元の俺の教室とはどでかい校庭を挟んで反対の校舎にあり、理科室や実験室などの移動教室のある校舎にある。
つまり、よほどの事がない限りは俺を知る奴らと遭遇することがないのだ。
体育の授業もこの特別室での授業も、まだ体が完全ではないためと晴彦がなんやかや先生をうまく言いくるめたらしい。
休み時間や昼休みには必ず晴彦がやってくる。
食堂にも行かなくてすむように晴彦ちゃんたらお弁当を持ってきてくれる。めちゃうまい。
特別室で授業を受け始めて三日ほどしたとき、いつものように晴彦の持ってきてくれたお弁当を開けてちょっと手が止まった。
「どうした?」
「いや、うん…別に。」
お弁当をじっと見て動かない俺に晴彦が声をかける。
なんでもない、と答え箸を取りいただきます、と手を合わせて、一口。
「どうした?」
「…なんでも、ない」
再び問いかけてきた晴彦を見ずに頭を振る。
そんなわけない、と思いつつ口の中のおかずを噛みしめる。
「…なあ、晴彦。おかず、味付け、変えた…?」
「…うまいか?」
「…うん」
晴彦は俺の質問に、はっきりとは答えなかった。
その次の日も、その次の日も。俺は弁当を受け取って、開けては一瞬手を止める。そして晴彦は毎回のように一言だけ『うまいか?』と聞いてきた。
「千里、BLウォッチングに出ないか?」
そんなある日の休み時間、晴彦から突然そんな風に誘われて俺は読んでいた本を落としてしまった。
え、なに、なんなの。晴彦ちゃんって京也様以外興味ないんじゃなかったっけ?
「新作頼まれてんだよ。構想練るのにネタがいるんだ、付き合え」
そういや晴彦ちゃんてば恋愛ゲームのシナリオ書いてんだっけ。すごいよね。
…そういや、俺、あれからずっとBL見たり読んだりしてない。あんなに好きだったのに、頭の片隅にもなかったなあ。
でも…
「大丈夫だ、千里」
俯いてどうしようかと悩んでいると、晴彦がまっすぐに俺を見た。
その目に、ああ、見抜かれてんなあとぼんやり思う。
あんな誘い方はしてるけど、ほんとはここに来てから寮に帰る以外は教室から一歩も出ていない、帰ってからも寮部屋から出ない俺を心配して気分転換に連れだそうとしてくれているんだろう。でも、表を歩くと高見沢と羽曳野の姿を見るかもしれない。噂を耳にするかもしれない。そう思うと足が動かない。
…だからと言って、ずっと殻に閉じこもっているわけにはいかない。部屋の移動申請書類もまだ出してないし。
もう二週間以上経ったんだ。いい加減少しづつ慣れないとな。
晴彦の、『大丈夫』を信じよう。
「行く」
俺は、立ち上がって高見沢への気持ちの決別への一歩を踏み出した。
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