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空いた席をただ見つめ、電気の消えた部屋へ戻る。この部屋はこんなに静かだっただろうか。こんなにも寂しかっただろうか。
羽曳野は、あれから幾度も高見沢を訪ねてきている。羽曳野には申し訳ないが、自分の気持ちに気付いた今もう一緒にいることはできないと思った。
急によそよそしくなった高見沢に、羽曳野は悲しそうにするがその顔にどこか思いつめたような影が見え隠れした。
千里が学校にも出てこなくなって5日目、高見沢は意を決して晴彦の部屋を訪れた。
何を話していいのかはわからない。でも、どうしても千里に会いたかった。
そこで突き付けられた、自分の醜い真実。
ああそうだ。あいつの言うとおりだ。自分は、千里の気持ちを試すために羽曳野を利用したのだ。
自分だけを見てほしい。
自分だけを頼ってほしい。
自分だけに笑いかけてほしい。
自分だけを呼んでほしい。
羽曳野にされて嬉しかったこと、かわいいと思ったこと。
それは全て、自分の千里に対しての欲求だった。
傷ついた顔を見る度に、こいつは俺のことが好きなんだと思った。
自分に向けるその感情を、きちんとだしてほしかったのだ。
自分からは言わないくせに、自分は千里に言わせたかったのだ。
晴彦の言うとおりだ、と顔を歪ませる。
自分に千里を責める権利などありはしない。羽曳野を好きだと思わせていたのは自分。
千里が自分と羽曳野のために、と考え行動してくれていたとき、自分のことしか考えずに行動していた。
晴彦の言うとおりだ。中学部の時に自分の為に自分たちの仲をかきまわしたあの腐男子と自分になんの差があるだろうか。
ただただ、後悔が押し寄せた。
しばらく経って、すっかり夜も暮れた頃、高見沢は座っていたソファからゆっくりと立ち上がる。ふーっと大きく息を吐き、目を閉じる。
落ち込んでいる場合じゃない。
自分が、自分のしたことに後悔するなら。
その後悔を、それ以上のことで塗り替えてやればいい。
反省や後悔なら後でもできる。
それをずっとしてうずくまるだけなら先になんて進めない。高見沢が、今の今まで考えて行き着いた答え。
やっぱり、どうしたって千里が欲しいんだ。
高見沢は閉じていた目を開けると、いつも千里が座っていたソファをじっと見つめる。
「待ってろよ、安田。」
強く決意を滲ませた目で見たソファには、いないはずの千里の姿が見えた。
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