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2

千里が戻るまで、何もする気が起きずにただぼんやりとしていた。やがて扉が開いて千里が部屋に現れた時、引きずっている足を見た。

『…足、痛めたのか。』
『ああ、うん。』

素直に認め、頷いた千里に高見沢の苛立ちはピークに達した。

千里があの時、晴彦に背負われていたのは足を痛めていたから。どちらが言い出したのか。千里からでなくとも、千里が晴彦を頼りにしてその身を任せた。その事実に怒りを感じた。

自分が、抱き上げてやろうかと言った時には断ったくせに!

怒りのままに部屋に戻り、コートを手にリビングに戻る。千里からどこにいくのかと聞かれて関係ないだろうと答えると

『関係ないけど』

と言われた。それに対して、ひどく腹が立った。千里にとって、自分はそれほど気にする相手でもないのだと言外に突きつけられたような言葉に、胸を鋭い針で貫かれたかのような痛みが走った。

そっちがその気なら。


『飯はいらねえ。羽曳野と食べる、これからずっと。』

わざと怒りを隠そうともせずに、そう言って部屋を出た。
それから、高見沢は千里に見せつけるかのように羽曳野とずっと行動を共にした。部屋に戻っても、ろくに話もせずに自室へこもった。いつも一緒にしていた食事もしなくなった。
自分でそうしながら、高見沢は毎日羽曳野を見てどうしてこれが千里ではないのだろうかと思う。どうしてこうなったんだろうか。千里と食べていたときにはあんなに楽しく、おいしかったはずの食事があんまり味がしない。

あいつが一言でも、

『一緒に食べよう』

と言ってくれたらすぐにでもこんなことやめるのに。

『しょうがないから一緒に食べてやるよ』

と大げさに肩をすくめてわざとらしくおどけてやるのに。
朝、部屋を出るときにキッチンの水切りに置いてある一人分の食器に、泣きそうになった。今さら、どうやってきっかけを作ればいいのかわからなかった。

なんとかリアクションを起こしてほしくて、わざと千里の前で羽曳野とまるでいちゃついているような素振りも見せた。その時の千里の顔を見て、ほっとしている自分がいる。

目の前で頬を染めながら万人を魅了する笑顔を浮かべている羽曳野のその顔よりも、自分たちを見て傷ついたような顔をしている千里の顔の方が高見沢の胸を高揚させた。



だけど、あの運命の日。

羽曳野のクラスで、晴彦に暴かれた羽曳野の真実。目の前に晒された羽曳野の秘密に、頭が真っ白になった。

だが、それよりも更に驚愕する事実。



安田が、自分と羽曳野をくっつけるために、計画した…?



千里が腐男子だとか、自分が一番嫌っていたやり方をされたとか、そんなことどうでもよかった。高見沢が一番傷ついた事実。



千里が羽曳野と自分を恋人にしようとした。



それがなによりもショックだった。




教室を出ていく千里を追いかけたくても、体が動かなかった。晴彦がすぐに千里を追いかけて出て行くのをただばかみたいに見ていた。
残された教室で、散らばった羽曳野の荷物をその場にいたクラスメイトが拾い集めて羽曳野に渡す。口々に千里の悪口を言いながら。羽曳野は、すっかり魔女に騙された悲劇のお姫様だった。

高見沢がようやく千里を捜して動けたのは、すっかり日も暮れた頃だった。それまで、周りの奴らや羽曳野が何を言っていたのか、自分がどんな会話をしたのか全く覚えていない。まるで水の中にでもいるようにゆらゆらと自分自身が揺れていた。


廊下の先で千里を見つけ、先ほどの真意を問いただす。嘘だと言ってほしくて。だけど、千里の口から出たのはやはり悪びれもしない一言で。

『お前にだけは、そんなことをされたくなかった!』

羽曳野と、恋人同士になんて。羽曳野を応援するようなことをしてほしくなかった。




目の前からいなくなる、と言った千里を唖然として見つめた。そうじゃない。いなくなってほしいわけじゃないんだ。だけど、思いとは裏腹に言った言葉の真意は伝わらない。
千里は、その日部屋に帰ってこなかった。

次の日、なんとかしてきちんと話をしようとクラスに緊張しながら入ったとき、数冊の雑誌を手に出て行こうとする千里を見つけた。その手にある雑誌に、昨日のことが甦りひどく冷酷な気持ちになる。

そんなに男同士がいいなら。





俺を相手にすれば、いいじゃないか。





そこまできて、ようやく気がついた。
自分が、なぜこんなにも千里に執着するのか。千里に対してなぜこんな気持ちになるのか。



気付いたときにはすべてが遅かった。千里は部屋に帰らないどころか学校にも来なくなった。

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