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「…ばかやろうが」


意識を飛ばした千里の額に手を当てたまま晴彦が悔しそうに唇を噛む。どうしてこいつはこんなにもバカなんだろうか。自分を犠牲にしてまで好きな相手の幸せを望むだなんてバカの一言しか浮かばない。


学校に行って、ゲイ雑誌を手に廊下を歩く千里に遭遇したとき晴彦ははらわたが煮えくりかえる思いだった。この学園の奴らはバカばっかりだ。己の目で何が真実か見極めることさえもせずに噂をうのみにして、自分には関係ない者なのにまるで正義の味方を気取ってたった一人を攻撃する。


羽曳野の話を聞いた時、晴彦はその卑怯な所業に腹が立った。BLを元に好きな相手を落とそうとするのは別にかまわないと思う。晴彦が怒りを感じた原因はそこにあったのではない。
それがばれた相手が千里だと言うこと。それだけで、羽曳野は千里を『平凡だ』と見下してあまつさえ怪我をしている足を踏みつけたのだ。自分にそれだけ自信があるのならば、千里に口止めする必要もないだろう。だが羽曳野は自分の立場を理解したうえで千里の気持ちさえも踏みにじったのだ。

晴彦はそれが許せなかった。

恋をする権利は人間だれしも平等にあるはずだ。なのに、羽曳野は千里に『顔が平凡だから』という理由だけでバカにし、傷つけたのだ。

目には目を、がモットーの晴彦はすぐに行動に出た。

千里に口止めして好きだと伝える権利を奪った上に自分だけリスクを背負わずにいるだなんて卑怯だろう?

千里の話から、晴彦は、羽曳野は絶対に本を持ち歩いているはずだと確信していた。それだけではない、そういう奴は必ず萌えネタにもできるようになにかしらメモして常に持ち歩いているはずだと。
案の定、羽曳野のカバンからは証拠品が飛び出した。後はそれで逃げ場のないように吊し上げてやればいい。だが、晴彦はただ一つだけミスを犯した。それは、千里が無自覚一途だとは認識していたが自己犠牲をするほどに健気一途だとは思いもしなかったこと。

羽曳野がしたことを自分が計画したと罪をかぶり、頼むから高見沢を傷つけないでくれと泣いて頼む千里に晴彦は謝ることしかできなかった。

晴彦は自分のしたことで千里がこんな立場に追い込まれてしまったことが悔しくてたまらなかった。



千里の熱は次の日も、そのまた次の日もなかなか引かなかった。回復力がそれほど落ちるほどに実は参っていたんだろうなと晴彦は眠る千里の看病をしながらその姿に胸が痛む。学校には晴彦が連絡をした。あれから三日。晴彦はそろそろあいつが来るころだろうと身構えていた。


ピンポーン…



まさにそう考えながら寝室で千里の額の冷えピタを取り換えていると部屋のインターホンが鳴らされた。チェーンをかけたまま扉を開け、そこにいた人物をきつく睨んでやった。

「…安田は、いるか…?」


ひどく憔悴した声で、今にも死にそうな顔をして高見沢が問いかけた。

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