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3

翌朝、まさかこんなことで休むわけにもいかないので学校へと向かう。なんだか頭が重い。昨日は散々泣いたし、夢の中でも泣いてたもんなあ。ずっと冷やしていたおかげか腫れはそんなにひどくない。俺は眼鏡もかけているし、傍から見ても目が腫れてるだなんて気が付かないだろう。

ガラリ、と扉を開けると騒がしかった教室内が急にしんとなる。

皆が何だか俺に注目しているような気がするんだけど気のせいだろうか?
高見沢はまだ来てないようだ。今の内にどっかに逃げよう。同じクラスだから、会うのは仕方がないとしてもさすがに昨日の今日で顔は合わせづらい。いつか平然と空気のようになれるときが来るだろうか。

自分の席に着き、カバンから教科書を出して机の中に入れようとして中に何か入っていることに気付いた。なんだろ?俺、置き勉してないんだけどな?

ノートでも忘れたかな、と思いながら机の中身を出す。

「…!」

中から出てきたのは、数冊のゲイ雑誌だった。
途端にくすくすと周りから嘲笑が起きる。

「うれしいだろ?お前腐男子だもんな」
「人の気持ち操って楽しむよりそれでもみて1人でシコッてろよ」

どうやら昨日の事件が出回っているようだな。なるほど。
ここで気にしてるようじゃ昨日のことが無駄になる。ショックを受けるような人間なんだって高見沢にバレたらおしまいだ。俺は平然と中身を取り出して教科書を詰め替えて、雑誌を抱えてクラスの奴らに向き直った。

「気遣いありがと。だけどさあ、チョイスが悪いよ。こんないかにも『男!』ってんじゃなくてさ、俺が好きなのはBLっつっても少しきれいめなマンガの方なんだよね。次からそっちにしてもらえたら助かるんだけど」

にっこり笑ってそういってやるとクラスの奴らが悔しそうな顔をした。

「最低人間がいっちょ前に要望通そうとしてんじゃねえよ!」
「お前、俺たちのことも観察してネタにでもしてんだろ!」

口々に俺を罵る言葉が飛び交う中、がらりと教室の扉が開いて渦中の高見沢が現れた。

一瞬にしてしん、となった中を無言で中に進み、自分の席に向かうと後ろの席の俺をじっと見た。
しまったな。高見沢が来る前に教室から出ようと思ったのに。俯いて視線を合わせないままに出て行こうと歩き出し、高見沢の隣を通り過ぎようとしたその時、はっと高見沢に鼻で笑われた。

「…ほんとだったんだな。お前が腐男子だっていうの。そんな雑誌まで見るくらい男同士が好きなのかよ」

俺の手の中にあるゲイ雑誌を見て嫌悪感を露わに俺を睨む。

「…そうだよ。言ったじゃん。俺は男同士のいちゃこらを見るのが好きなんだって。」

それ以上高見沢に何か言われるのが怖くて、俯いて教室を飛び出した。
その日一日は散々だった。噂が噂を呼んで、俺はいじめのようなものを受けるようになった。雑誌に始まり、写真やイラスト。果ては『ヤラせろよ』なんてメモ書きを貼り付けた精液付きのティッシュが机に入れられたりしていた。俺はそれを高見沢にばれない様に隠れて処分する。休み時間のたびに俺が教室を抜け出すから皆やりやすいんだろう。高見沢はいつも毎時間、何か言いたそうに俺をじっと見てきたりしていたが、俺は一切高見沢とは目を合わせなかったし話しかける隙なんて作らなかった。
学園内のどこにいても、俺を見るその視線が嫌悪の眼差しだと言うのはちょっとクルものがあるけれど、二人がくっつくならそれでいい。

実際、羽曳野は昨日の一件以降皆に

『悪魔に操られたかわいそうな姫君』

とされ、高見沢とのことを皆に応援されていた。

晴彦は俺が受けている嫌がらせを知って激怒してそいつらに何かしでかしそうな勢いだったのを俺が頼むからやめてくれと言った。晴彦が怒ってくれるのはすごく嬉しい。だけど、晴彦はきっとただ庇うだけじゃすまない。俺のために何かすると今度は晴彦が何か言われる。
晴彦はきっとそんなこと歯牙にもかけない。だけど、俺が自分のしでかしたことで晴彦に迷惑をかけたくない。
…部屋に止めてもらう時点で、かなり迷惑なんだろうけど。

休み時間にも、俺は晴彦の所には行かない様にした。俺とつるんでいるのを見られて晴彦にまで被害が及んでほしくない。

大丈夫。俺はまだ大丈夫。

そう思っていたのは、上から水をかけられた時までだった。





「…っくしゅ」
「39度か。完全に風邪だな。」

体温計を手に晴彦がじろりと俺を睨む。ごめんってば。
まさか水を上からぶっかけられるとは思わなかったんだよ。ずぶぬれになったまんま教室に帰ることもできずに放課後まで屋上にいたもんだから体がすっかり冷えてしまって、元々調子が悪かったのもあり晴彦の部屋に戻ると玄関に入ると同時に倒れてしまった。
晴彦はぶっ倒れた俺をベッドまで運んで服も着替えさせて、寝かせてくれた。
何よ晴彦ちゃん。優しいじゃない。

「とにかく寝てろ。何か欲しいもんはないか?」
「欲しいもの…」

晴彦の声が何だか遠く聞こえる。朦朧とする頭で晴彦の言ったことは何だっけと考えているとそっとおでこに手を当てられ、優しい人肌の温もりにじわりと涙が浮かぶ。

欲しいもの。俺が、欲しいもの。



「…が、ほしい…」


人間弱ってる時はぽろりと本音が出ちまうらしい。それは俺も例外ではなく。小さな声でそうつぶやいた瞬間に俺はすうっと闇に吸い込まれてしまって、晴彦に届いていたのかどうかわからずじまいだった。

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