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「まて、千里!」
早足で校舎を抜け寮に向かっていると、後ろから晴彦が追いかけてきた。絶対来ると思ったんだよね。この速さならきっとあいつらに何も言うことなくすぐに追いかけてきてくれたんだろう。
よかった、晴彦が何も言わないうちに連れ出せて。
「千里っ!」
俺の手を引いて無理やり晴彦の方に向かされる。やだな、今ひどい顔してるのに。
「…」
「…晴彦、頼むよ。ほっといてやってくれ。な、何がお前をそんなに怒らせたのかわかんないけどさ。頼むから許してよ。た、高見沢が、やっと、好きな奴、見つけたんだ。だから、だからっ…!」
「ばっかやろう!だからってお前が犠牲になることないだろうが!お前、あいつに誤解されたままでいいのかよ!あのままじゃ、お前一人が悪者だろうが!」
ぎり、と晴彦により強く腕を掴まれる。
「―――お前、高見沢が好きなんだろうがっ!」
掴まれた腕よりも、胸が痛んだ。
「…好きだから。好きだから、晴彦。俺、高見沢には幸せになってもらいたいんだよ。」
高見沢に、自分の好きな奴に過去と同じ事をされただなんて思ってほしくない。羽曳野は高見沢の過去をしらないんだ。羽曳野がしたとなれば、今度こそ高見沢は二度と恋愛ができなくなるかもしれない。
それだけは、絶対にいやだ。
羽曳野とあんなに幸せそうに笑いあってた高見沢が、二度と幸せを見いだせなくなるのは絶対にいやだ。
俺なら。高見沢から話を聞いていた俺がしたことだということにすれば、高見沢は俺に怒りを向けるだけですむ。
羽曳野ならうまく言い訳するだろう。俺の話に乗ってくれればいい。
「あ、あのさ、晴彦。こんなこと頼める義理ないんだけどさ。し、しばらく、お前の部屋にいさしてくんないかな。
部屋移動の申請、今から出してくっから。」
さすがにもう高見沢とは同室ではいられない。あっちだって、俺と一緒だなんて嫌だろう。
でも、俺は弱虫だから移動になるまで高見沢に嫌悪の目で見られるのは耐えられない。
しゃくりあげながらお願いすると、晴彦は俺の頭を自分の肩に押しつけ、ぐしゃぐしゃと撫でながら小さく『悪かった』と謝った。
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