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4

それだけではすまなかった。

「あ、ごめん」

晴彦は、散らばった羽曳野の鞄の中身をいかにも当たってしまいましたと言う自然な仕草で蹴りその中身が床一面に広がるようにした。当然、そこにはあの日羽曳野が一人放課後の教室で読みながら笑っていた本があるわけで。

「羽曳、野…」

それを誰よりも早く目にしたのは、他でもない高見沢だった。

ざわざわとざわめき出す教室、みるみる青くなる羽曳野、信じられない、と驚愕の眼差しを向ける高見沢。

「なにこれ。BL本?『小悪魔な僕に振り向いて』?まるでお前みたいな主人公だなあ。なあ、羽曳野?」

本を拾い上げ、ぱらぱらとめくりながら晴彦が羽曳野に問いかける。

「…そ、ういう、本が、好きなのか?趣味、なだけだよな?羽曳野…」
「の割にはこの日記、なんかこの本と筋書きが似てるけど。なあ、羽曳野?」
「…ち、がうよな。お前は、そんなことしないよな…?」

高見沢が懇願するように羽曳野に答えを求める。対して晴彦の顔は、獲物を追い詰めた獣の様だった。まさか。こんな事をするなんて。
あくまで無表情に、だけどその目に確実に怒りを宿している晴彦に俺はわけがわからなかった。どうして、何に晴彦はここまで怒っているんだろう。でも、一つだけわかることはある。それは、羽曳野が腐男子で、それを高見沢に皆の前で暴露されてしまう事態を作ってしまったのは俺だと言うこと。



しん、と今まで騒がしかった教室が一気に静かになり、それからひそひそとささやき合う声が聞こえ出す。

「え…、羽曳野くんって腐男子とかいうやつだったの?」
「人を落とすのに日記付けてるとかってどうなの?」
「うわ…、高見沢、もてあそばれたのかよ、かわいそ〜」


その声は、羽曳野を糾弾するもので。特に晴彦はまるで逃がさないとでも言うように無言で笑みを浮かべ羽曳野を見ている。とどめとばかりに何か言おうと晴彦が口を開いた瞬間に、俺は一歩踏み出した。






「あ〜あ、ばれちゃった」

教室に、罪を認める発言が大きく響く。
だけどその一言は、羽曳野ではなく俺が発したものだった。



「安田…?」
「ダメじゃん、羽曳野〜。ちゃんと部屋に隠しとけって言ったろ?あ〜あ、計画台無し。」
「千里」

俺は三人に近づき、高見沢の方も、晴彦の目も見ず晴彦の手から日記と本を取り上げた。そしてそれをそのまま羽曳野に押し付ける。

「高見沢、ごめんな〜?俺、実は腐男子なんだよね。羽曳野がお前の事好きだって知って、俺がこの本勧めたの。『この通りにやればきっと高見沢は落ちるよ』ってね。」
「千里!」

大声で俺を制しようとする晴彦の言葉を無視して俺は続ける。

「あと少しだったのにな。まあでも、すっげ萌えたよ。お前が徐々に羽曳野に落ちて行くのを間近で見せてもらえたし、腐男子的には最高の物語だったね。まあ最後の最後にネタバレしちゃったから残念だけど、ま、あとはお二人で仲良くやっちゃってよ。」
「…まて!」

じゃーねー、と手を振ってその場を去ろうとする俺の手を掴んだのは、高見沢だった。
一瞬、心臓がどくりと大きく跳ねる。だけど俺はそれを必死に押し殺して、にっこり笑って高見沢に振り向いた。

「なに?」
「…今、今のは、ほんとなのか。」
「…ほんとだよ」

俺の答えにくしゃりと顔を歪ませる高見沢に、ぎしりとひどく心臓が痛む。ごめん。高見沢、ごめん。

「千里!てめえ…!」
「晴彦は黙っててよ。ひどいじゃないの、晴彦ちゃん。お前のせいで俺の計画ばれちゃったじゃん。もう二人の恋に落ちて行く甘酸っぱい過程を見れなくなっちゃったんだよ?」

頼むから何も言わないで。そんな願いを込めて晴彦を見たけど、晴彦はますます目を怒りに燃えさせてしまった。やばい、このままじゃ何を言われるかわかったもんじゃない。

「高見沢さあ、お前まさかこれで羽曳野が嫌になったとか言わないでよ?そんなうっすい気持ちで羽曳野といたんじゃないよね?羽曳野がどうアプローチしていいかわかんないって言うからちょーっと俺自身の萌えのために俺が羽曳野を利用させてもらっただけなんだからさ。…じゃあな。」

言いたいことを一気にまくしたて、用はないとばかりに俺は教室を後にした。

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