一途
部屋に戻ると、高見沢がソファに座ってテレビを見ていた。
「…おかえり」
「あ、うん。ただいま…?」
いつものように挨拶をしてくれたんだけど、なんだか様子がいつもと違う。こっちを見ようともしないし、声もなんだか低い。
…不機嫌?
「ごめんな、すぐご飯の用意するから」
もしかして腹減ってんのかなーなんて思って足を引きずってキッチンに向かうと高見沢がいつの間にかそばに来ていた。
「…足、また痛めたのか」
「あ、うん。ちょっとひねってさ」
「それで、あいつに…」
「は?」
ぼそりと何かつぶやいたけど聞こえなくて聞き返すと、高見沢は苦虫を噛み潰したような顔をしながらなんでもない、と頭を振った。
なんでもないのにそんな顔すんの?
まあいいか、と夕食を作ろうとしたら高見沢が部屋からコートを持ってきて玄関の方に向かった。
「あれ?出掛けんの?」
「…お前には関係ないだろ」
「…いやいやいや、確かに関係ないけどさ…、晩飯今から作るんだから帰ってくんのか教えてよ」
何不機嫌になっちゃってんの。こいつはあれか。嫁と喧嘩した旦那か。
「…そうだよな。お前は俺のことなんか簡単にそう言っちまうんだよな。」
「え?」
「なんでもねえ。飯は羽曳野と食うからいらねえ。これからずっと。お前にはあの晴彦とかいうやつがいるからいいだろ」
やや苛ついたようにトゲのある言い方をしながら高見沢は出て行ってしまい、俺は一人、間抜けにぽつんと廊下に佇んで高見沢の出て行った扉を見つめた。
ずるずると足を引きずりながらリビングのソファに向かい、どさりと力を抜いて倒れ込む。
「…なんだよ」
意味わかんない。なんであいつ怒ってんの。これからずっとってなんだよ。関係ないってなんだよ。俺たち、友達じゃなかったのかよ。
先ほどの高見沢のセリフを思い出して、じわりと涙が目に浮かぶ。
『高見沢が落とされんのを黙って見てんのか』
しょうがないじゃん、晴彦。俺、羽曳野に何一つ勝てるもんないんだもん。羽曳野ぐらいかわいかったら、腐男子だってなんだってきっと高見沢も他の奴らもなんも思わない。でも、俺は違う。顔だって平凡、人より何か秀でてるわけでもない。友達だって多いとはいえない。俺みたいな奴は、この学校ではどちらかと言われると嫌われている部類に入る。
同じ腐男子でも、俺がしたならきっと許されない。
『てめえ、逃げてんじゃねえぞ』
いつか、晴彦が俺に言った言葉。そうだ。俺は逃げてるんだ。無理だよ、晴彦。逃げさせてよ。
友達の枠から飛び出す勇気なんてないんだよ。
俺はソファの背もたれに頭を預けて、両手で顔を覆って流れる涙を必死に抑えた。
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