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「ここまでは筋書き通りかなあ。もう少ししたら完璧に落ちるはずなんだけどなあ、まだなんかシチュが足りないかなあ?」
くすくすと笑う羽曳野は、ぱらぱらと何やら本をめくっている。
「こないだは本の通りの行動でお姫様抱っこしてもらったし、後はこれだね。偶然を装って躓いたふりをして受け止めてもらって、見つめあってゆっくりとキス、か。ふふ、本の通りになるなんてすごいよねBL。萌え〜!」
な ん で す と ?
「っ、誰ッ!?」
聞こえた内容に思わず隠していたその身を立ち上がらせて思い切り音を立ててしまった。羽曳野がそれに驚いて慌てて本を隠し、俺の方へ勢いよく振り返る。
「…あ。君、確か…」
「…ども」
俺のバカ。がっつりばっちり見つかってしまって、仕方ないので開き直って手を挙げて挨拶をする。
「高見沢くんの同室の子だよね。もしかして、さっきの聞いちゃった?聞いちゃったよね?ねえねえ?」
かわいらしい顔ににっこりと笑みを浮かべながら俺に近づく羽曳野に、震えながら後ずさる。なんで震えてんのかって?
だって、こいつ目が笑ってねえんだよ!これあれだ、腹黒属性の匂いがぷんぷんするよ!
「き、聞いた。何、お前、BLをマニュアルにしてんの?本のシチュ通りに、誰を落とそうって…」
自分でそこまで言って、さあっと顔が青くなる。誰かって?そんなの、ひとりしかいねえじゃねえか!
「や、やめろよ…」
「は?なにが?」
「お、お前、腐男子なんだろ。お前のそれ、『こんな手を使ったけど本気なの』でハピエン目指してんのかも知んないけど、そんなの本の中の夢の話でしかねえだろうが!腐男子ならそんぐらいわかれよ!」
コイツの言ってる落とす相手。それは十中八九高見沢でしかない。
高見沢は、腐男子が嫌いだって言ってた。人の気持ちを自分のいいように操ろうとするからって。こいつにそんな手で高見沢を落とされるだなんて、そんなの嫌だ。
高見沢が一番嫌いだと言うやり方で高見沢を取られるだなんて絶対に嫌だ。
「…言いたいことはそれだけ?」
「うあ!」
羽曳野は黙って俺の言い分を聞いていたかと思うと、にいと口角を上げてふいに俺に近づき、どんと思い切り押してきた。いきなり結構な力で押されたもんだから、よろけてその場に倒れてしまう。
「君になんでそんなこと言われなきゃなんないわけ?関係ないよね?ああ、それともなに?高見沢君の事、好きだったりする?」
「…!」
くすくすと笑いながら、倒れた俺を見下して笑う羽曳野は天使なんかじゃなく悪魔そのものだった。こいつ、今まで猫被ってたのか!
その事にも衝撃を受けたけど、俺が一番びっくりしたのは最後の羽曳野の言葉。
高見沢を?俺が好き?
「ち、ちが…」
「…まあ、どっちでもいいけどさ」
「いっ…!」
否定の言葉を聞く前に、羽曳野が俺の痛めた足をぐり、と踏んできた。いたいいたいいたい!何この子!猫かぶりなうえにドSですか!
「高見沢君に余計なこと、言わないでよ?ボク、ちゃんと彼の事好きなんだよ?僕は確かに腐男子だけど、別にネタにするために高見沢君を落とそうとしてるわけじゃない。彼が好きで好きでたまんなくって、でも正攻法だと落ちないって聞いたから。女の子だって、恋愛マニュアルみたいな本を見て必死に好きな子をどうやって落とすか勉強するじゃん。
本の通りにして、上手くハートをつかんで恋人になったりするじゃん。でも、僕たちには女の子の恋愛マニュアルなんか適応しない。その点、BLは男同士の恋愛なんだからいわば男が男を落とすためのマニュアルみたいなもんじゃん。それを使ってその通りにして好きな人を手に入れて何が悪いの?
まあ、君が何言ったって信じてもらえないとは思うけどね。だって、僕、学校のアイドルだし。地味で平凡な君が言いふらしたって、ただのやっかみだと思われるのがオチだよね。」
くすくすと笑いながら俺の足をぐりぐりとにじる。言い返してやりたいのに、上手く頭が回らなくて一言も返せない。だって、羽曳野の言うことはもっともだ。俺が何か言った所で、信じるやつなんて晴彦ぐらいしか思いつかない。高見沢だって…、
「…いわ、ない…。」
「え?」
何も言わなかった俺のぽつりとつぶやいた言葉に、羽曳野が足をにじるのをやめてしゃがみ込んで聞き返してきた。
「言わない…。高見沢には、言わない。だから、頼む。お前も言わないでくれ。お前が、BLを元に高見沢を落としたってこと、誰にも言わないでくれ。…頼む。」
俯いて頭を下げる俺を、羽曳野が黙ってみているのがわかる。
どんな顔をしているのかは見れないけど、何やらじっと考え込んでいるような雰囲気は伝わる。
「…ま、別に元から言うつもりなんてないけど。ばれちゃったらハピエンじゃなくなっちゃうかも知れないもんね。せっかく落せてもバドエンになるリスクを背負うような真似したくないしね。」
しばらくすると、羽曳野はそう言って俺を置いて教室から出て行った。
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