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海星は一人、いつものカフェテラスでそわそわと落ち着かない雰囲気でコーヒーを飲んでいた。というのも、前回またまた健吾に逆にしてやられてしまったことを相談すると、いつも相談に乗ってくれていた冴葉と弘斗の二人の都合がつかず、それなら、と弘斗が別の人を紹介してくれると言ったのだ。

「やあ、遅れてすまない。君が西河海星君かな?」
「!は、はい。あの、その、よろしくお願いします!」
「はは、まあそんなに固っ苦しい挨拶はいらないさ。こちらこそよろしく」

カフェの扉が開いた途端に湧き上がった静かな羨望の声を浴びて颯爽と海星の前に現れた二人。並んでいると圧巻というか、そこらの男など霞んでしまいそうに輝かんばかりの美貌を兼ね備え、なおかつその全身からあふれ出る常人とはかけ離れた人を魅了するオーラに海星は緊張のあまり手汗をかいた。

『私が秘書をしている結城熱様のご兄弟の、結城涼様という方も素敵な奥様と仲睦まじく暮らしております。その奥様のご友人が、さらに九条貴仁というこちらも有名な財閥の長男の方の奥さまなのですが、奥様同士がお二人でレストランをされていらっしゃるんです。奥様同士仲がよろしいと言うことで涼様も貴仁さまも仲がよく、それぞれべた惚れでラブラブクソ甘ったるいお互いの奥様のお話をよくしていらっしゃるそうで…今回は涼様と貴仁さまのお二人からお話をお聞きしてはいかがですか?』

先日、電話で弘斗からそう言われて日にちを指定され、海星はその名前しか知らない二人を待っていた。あの弘斗の口から『べた惚れラブラブクソ甘ったるい』という言葉が出たことに驚いたが、その後弘斗が『うちも負けないくらいラッブラブですがね!』と言っていたのでただ惚気で負けたくないだけなのか、と理解した。そして、指定された時間になりそこに現れたのが先ほどの二人だ。

「はじめまして、結城涼だ。よろしく。」
「俺は九条貴仁だ。」
「は、はじめまして!」

挨拶一つだけで周りにいる女子からの感嘆の声が上がる。だがそんな周りには目もくれず、二人は優雅な身のこなしで席に着くと早速海星の話を切り出した。

「それで?弘斗から話を聞いたところによるとなんでも奥様にいいようにあしらわれてるって?」
「手のひらで転がされてるのか。」
「ぐうう…!ひ、否定はできません…。」

さらりと辛辣に海星が一番気にしていることを口に出され、しょぼんと項垂れる。

「その、お、お恥ずかしいながら、うちの奥さんは肝っ玉が据わってると言うか、豪傑って言葉がぴったりな人で、いや、不満はないんですよ!ただ、俺がこんなんでしょ?いつもほんとなにもかもかなわなくて子ども扱いされるって言うか手のひらの上で転がされると言うか…」
「なるほど、海星君は奥様を見返したいんだな?」
「だが、それをしようとして失敗したんだろう?」
「ぐふっ!」

容赦ない一言にがん!とテーブルに頭を打ちつけるようにして倒れる海星を見て、二人はふむ、と考えた。

「海星君。なら今までと逆の手を使ってみちゃどうだ?」
「逆?」
「そりゃいいな。君は今まで、年上の奥さんの上を行こうとして失敗してるんだろう?」
「「なら、年下ってのを大いに利用した手を使ってみるんだ!」」


ぱちん、と二人そろって放たれたウインクに周りの女の子たちからまた甘いため息が漏れた。



「…甘えながらふと見せる決め顔…ですか」
「そう。俺は酔ったフリして夏緒の太股にすりすりして、『もーしょうがないなー』ってなった所でビシッと真顔で『愛してる』って言うんだよ」
「俺は満留の胸にすりすり甘えつつ、真剣な声で『好きだよ』って言うなぁ」

お互いのしていることにうんうんと頷きあう二人を見て、海星は少しだけ『ああ、さすがあの弘斗さんが胸張って紹介するだけあってある意味弘斗さんと同じ残念な人たちなんだな…』と親近感を覚えた。

「『夏緒〜、夏緒〜、愛してる〜!』って甘えると、『はいはい、俺もだよ〜』って頭を撫でてくれるんだ!」
「…そっすか…」

でれりん、と先ほどこの店に入ってきた時とは打って変わって締まりのない顔でのろける涼に、『それってうまくあしらわれてんじゃ…』とは言えなかった。

「み、満留だってな!料理してる最中に構ってほしくなって俺が『お耳かいかいなんだよ〜、掃除して〜』って言うと『お風呂に一人で入れたらね〜』って言って俺が風呂から出たら耳掃除してくれるんだぜ!」
「…そっすか…」

涼と同じく、いやそれ以上に締まりのない顔をしてのろける貴仁にこれまた『それもあしらわれてんじゃ…』とは言えなかった。

「と、とにかくだ。ギャップって言うのかな?海星君は普段、リードを取ろうとして相手より強くカッコよく魅せようとして失敗するんだろう?」
「なら、今度は甘えに甘えて、向こうが『しょうがないなあ』って母性本能をくすぐられた瞬間に男らしい一面を見せるんだ!」
「な、なるほど!」

先ほどの例えでは、ただの嫁ばかなのろけ話にしか聞こえなかった二人の言葉が海星の気持ちに火をつける。一理ありだ。

「ありがとうございます!おれ、やってみます!」

ぐっとガッツポーズを決めて、二人に深々と頭を下げて礼を言うと、その後二人の『どちらがどれほど嫁に甘えているか自慢』が始まって聞いているこちらが恥ずかしさのあまり溶けそうなのろけ話を延々と聞かされた海星であった。

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