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4

それからまあ、小暮と俺の奇妙な生活は特に何の問題もなく過ぎて行った。初めは警戒していた小暮も、一緒に生活するうち徐々に俺に慣れて話してくれるようになった。とはいえ、生徒会室に行くとまっすぐに上村に飛んでいく。

「しゅんくん、しゅんくん!」

にこにこと満面の笑顔で上村に抱きつく小暮。上村も、そんな小暮を嫌がることなく自然に受け止める。俺に話しかけるときは、いつだってちょっとこわばった顔をして、小さな声で返事をするのに、上村相手だと本当に心を許しているのがよくわかる。いつもそれを苦い思いで見つめながら、本が届くのを今か今かと待ち続けていた。

いよいよ明日、という日の放課後、いつものように小暮を連れて生徒会室に行くと小暮は上村の傍に行きにこにこと嬉しそうに話しかけ、上村と共に中心にあるソファに座り何やら楽しげに話し始める。小暮が幼児化してから毎日見て慣れているその光景に、俺は突然言いようのない不安に駆られた。

「…悪い。ちょっと仮眠してくるわ」
「あ、はい。大丈夫ですか?保健室に行った方が…」
「いや、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから。なんかあったら起こしてくれ」

山本に声をかけ、隣にある仮眠室へと向かう。扉を閉めてベッドに倒れ込んで、うつぶせでシーツをぎゅうと握りしめた。


本が届くのを、心待ちにしていた。本さえあれば、小暮は元に戻るのだと。だが、同時に押し殺していた不安が胸から溢れ出す。
本当に、その術は解けるのだろうか。

もし、何も変わらなかったら?小暮が、幼児化したままだったら?

上村にひどく懐く小暮の姿を見ていられなくて仮眠室に逃げ込んだ。俺にだけ甘えていた小暮はそこにはいない。甘えるどころか、俺は小暮の中でただ自分の面倒を見ている人、それ以前に自分に変な事をした嫌な人というカテゴリに分類されているのだ。

自分が記憶をなくして小暮に散々冷たく当たっていた時の事を思いだす。俺自身に、その時の記憶はないのだけれど人づてから聞く俺の記憶喪失の時の小暮への態度はひどいものだった。自分でそれを聞かされて凹んだりはしたけれど、記憶がない分実はそんなに実感がなかったんだ。

今、自分が小暮から忘れ去られて初めて気付く。

俺は、まだいい。小暮は子供に戻ってしまっただけで、『嫌い』とは言われても態度ややることなどはしょせん子供。傷つきはするけれど、こちらが優しくすればそれだけ警戒は解くし寄っても来る。
だけど、小暮はどうだっただろうか。

恋人であるはずの俺にその存在自体を無かったことにされ、あげくに自分と他人を間違えられて。どれだけそばに寄りたくても、声をかけたくても掛けることもできなければそばに寄ることすら許してもらえなかったのだ。

「…俺って、ほんと最低な奴だな…」

今までの事を思いだすと、自分がどれほど身勝手で小暮に甘やかされていたかがよくわかる。西条との浮気を疑った時だって、四月バカの時だって、記憶を失ったときだって。いつだって、小暮を泣かせるのは自分。好きだと甘い言葉を囁けばへにゃりと眉を下げて真っ赤になって許してくれる。結局の所、俺がこうして小暮と付き合っていけていたのは、小暮の努力があってこそではないのか。

「ごめんな、小暮…」

固く閉じられた、まるで小暮の心の様な扉の向こうに向かって一言謝罪をこぼすとすう、と意識が闇に飲まれて行った。



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