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3

それから俺は、毎日忍の病室に通った。二人の思い出の写真や、思い出の品物なんかを持って。

医者は、あまり一気に言わない方がいいと言った。混乱して、全てを拒絶してしまうようになり余計に病状がひどくなるかもしれないと言われた。だから、一日一つだけ。30分だけと決めて忍の元へ訪れる。

病室に現れる俺を見るなり、忍はひどく怪訝な顔をした。それにめげそうになるがグッと足に力を入れて忍の傍へ寄り、笑顔で話しかけた。


「ほら、これ、覚えてるか?お前が俺にくれたストラップ。お前がかわいがってるインコと色違いで、お揃いなんだ。お前がこれを初めてくれた時さ、俺、すごく照れくさくて『もらってやる』なんてえらそうに言ったっけ…」

俺が病室に行って話しかけても、忍は目を合わせようともしない。窓の外を見ていたり、そっぽを向いてベッドに潜ったままでいたり。それでも、俺は独り言のように話し続けた。絶対、絶対に忍は思いだしてくれるはずなんだ。だって、あんなに俺を好きだと言ってくれていた忍が、俺を忘れたままのはずなわけがない。

「…ああ、時間だな。…また、」
「なあ、あんた。」

立ち上がって帰りの挨拶をしようとした俺を、記憶喪失になってはじめて忍が呼び止めた。いつものように名前よびではないけれど、呼ばれたということ自体に歓喜に体が震える。

もしかして。

そんな淡い期待を抱いた俺に待っていたのは、死刑宣告のような言葉だった。


「毎日毎日、よくも飽きずに来れるな。正直、記憶にない話をされてもなんとも思わないし思いだそうとも思わないんだけど。俺とあんたが付き合ってたって?…信じらんないよ。もしあんたの言うことが本当なんだとしたら、なんで俺はあんたを思いださないんだろうな?ほんとに付き合ってたの?
…毎日、そんな話聞かされてもしんどいだけなんだけど。だからさ、もう来ないでくんない?あんたもさ、確か生徒会長なんだろ?こんな薄情な俺よりも、もっといいやついるんだから他当たったほうがいいよ」


ひどくうっとおしそうにそう言うと、それっきり忍はベッドに潜り込んで何も言わなかった。

手足の先が、ひどく冷えているのがわかる。まるで自分が氷の上にでも立っているみたいに、感覚なんて全くなくて。

「…また、くる。」

ようやく絞り出した声は、ひどく小さくて自分で出したものじゃないような気がした。

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