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5

それからというもの、綾小路とテツヤは常に行動を共にしていた。いつだって、綾小路の隣にはテツヤがいる。しかも、テツヤはいつも綾小路を連れて小暮の前に現れるのだ。

小暮と遭遇するたびに綾小路は小暮をまるで親の仇のように睨みつける。そして、テツヤはそんな綾小路をなだめようと小暮の前で綾小路に甘えて見せる。
綾小路は甘えてくる小暮にでれでれに鼻の下を伸ばし、もっと見せつけるかのごとく肩を抱き寄せる。

小暮は、そんな二人を目の当たりにしながらも一切表情を変えようとせず、平然として二人の隣を通り抜けるのだ。

そんな二人の行動に何よりも怒りを感じていたのは、他でもない役員の三人だった。

「もう我慢できない!」

生徒会室にいた綾小路が、『誰かに襲われたら危ないから』と先ほどまで一緒にいたテツヤを連れてテツヤを寮の部屋に送るために生徒会室を出て行った。
その途端にばん!と机をたたいて、上村が叫んだ。
テツヤが提案した、恋人はテツヤだと思わせておくということに一番納得していなかったのも上村だ。本当は、そんなこと絶対にさせたくなかった。だけど、当の小暮が綾小路の為にと身を引くのを無理やり拒否させるなどできなかったのだ。そこで、しばらく様子を見るつもりでいた。テツヤの提案が小暮によって了承された時、上村たちもテツヤに一つの条件を出した。

テツヤの言うとおり、記憶を無理やり戻させるようなことはしない。でも、それとなく、記憶を思い出させるように仕向ける。テツヤには、そうしてもらうように提案したのだ。

それなのに、これはどういうことなのだと上村は憤慨した。テツヤは、記憶をきちんと戻すように仕向けるどころかますます綾小路が自分を恋人として扱うように仕向けているとしか思えない。それに、小暮をわざと傷つけようとしているとしか思えなかった。

これ以上、ただ指をくわえてみているだけなんて冗談じゃない。
上村は、おもむろに立ち上がると生徒会室を飛び出して駆け出した。飛び出した上村に続いて草壁と山本が追いかけて行くと、ちょうど綾小路がテツヤの所から戻って来る途中であったのだろうこちらに向かってくる姿が見えた。

「なんだ、お前らどうかしたのか?」
「どうかしたのかじゃないよ!会長、いい加減にしなよ!」

三人で駆けてくるなんて珍しい、何か大変なことでもあったのかと綾小路が声をかけると上村が綾小路の胸ぐらをつかみ食って掛かった。

「な、なにしやがる!」
「俺、会長の事、すっげえ尊敬してた!前まで下半身男で、俺様で、自己中で爛れた生活を送ってる人間が大事な恋人ができたからってそいつを一途に大事にする会長を尊敬してた!」

上村の言葉に怪訝な顔をして綾小路が胸ぐらをつかむ上村の手無理やり引きはがす。

「今でも俺は大事にしてるじゃねえか!」
「してない!会長がほんとに大事にしなきゃいけないのはあいつじゃないって俺言ったじゃん!会長は誰が好きだったのか思い出せよ!大事な奴を間違うなよ!」

自分の思いを否定された綾小路は上村に対して怒りを覚えた。すう、と途端に綾小路の目が見た事も無いほどに冷たい色を帯びる。それに上村は一瞬びくりと体を竦ませるも、ぎっと綾小路を強く睨んだ。

「…こぐちゃんが、かわいそうだ。会長、最低だ。」
「またあいつの事か…。いいか、もう一度だけ言っておく。俺の恋人は、小暮だ。あいつしかいねえ。あのデカブツの事をお前はどうにかしたいようだがな。あいにく俺はあんな野郎はタイプじゃねえんだよ。一回でもいいから相手しろっつってもごめんだね。どうせ抱くならかわいい子がいいしな」
「…その言葉、忘れんなよ。後悔するからね」
「してたまるかよ。」

はっ、と鼻で笑って三人の横を通り抜ける綾小路に、三人はどうしようもない、と首を振った。



「話ってなんですか?」

その後、上村は大人しく生徒会室に戻るかと思いきや、なんとテツヤの部屋に行きテツヤを呼び出した。揃った役員を前におどおどする仕草を見せていたテツヤに、上村は怒りを抑えながら話を切り出した。

「君ね、俺たちがあの日に行った事覚えてる?ちゃんと自分が恋人じゃないって、本当の事を思いだせるように仕向けてくれてるの?」
「…ああ、そのこと、ですか」

上村が問うたことに、テツヤが突如態度を変える。腕を組み、人を見下したような目で見たかと思うとその顔に歪に歪んだ笑みを浮かべたのだ。その豹変ぶりに役員の三人共が思わず目を見張る。

「だって、しょうがないでしょう?ちゃんと話をしようにも、会長がもう僕の事を好きで好きで仕方ないっていうんですもん。これってもう、僕の力じゃどうしようもないですよね?だって、あっちが僕を恋人だって甘えてくるんですもん」

ふふ、と笑うテツヤに、上村がぎゅっと拳を握りしめる。やはり、初めに感じた自分の勘は正しかった。こいつは、確信犯だったんだ。綾小路の為と言いつつ、綾小路の恋人である立場を手放すつもりなど初めからなかったに違いない。
もっと早くに気付くべきだった。そうすれば、綾小路とコイツを近づけたりなどしなかったのに。

「…それが、あなたの本性ですか。」
「本性も何も、僕が望んだことじゃないですよ?あっちが勝手に僕を恋人だと思い込んでいるだけで、僕はそれを受け入れてるだけです。でも、今さらだと思いますけどね?会長は僕を溺愛してるんですもん。あなた方がいくら本当の事を言った所で、受け入れないでしょうねえ」


あはは、とバカにした笑いを放ち、テツヤはその場から去っていった。残された三人は、それぞれにとても苦い思いを抱えていた。

「…俺、こぐちゃんに会ってくる。」
「…私は、小暮テツヤについて調べてきます。」
「僕は会長が間違いを犯さないようにそれとなく監視を続けてきます」

だが、このまま引き下がるわけにはいかない。綾小路と小暮の二人を、今まで一番近くで見てきた三人だ。二人がどれほど想い合って幸せだったのかを見てきたのだ。
それぞれの決意を胸に、三人共それぞれの役割を果たすためにその場から歩き出した。



「こぐちゃん、みっけ」

上村は、皆と別れた後に温室へとやってきていた。ここは、小暮と綾小路の思い出の場所であると聞いたことがある。上村は小暮が一人ここにいるのではないかと目星をつけていた。
読み通り、小暮は温室の中ほどのベンチに一人ぼんやりと座っていた。本来ならばここは生徒会の管理となっているために一般生徒は出入りできない。だが、生徒会役員の恋人は代々この温室の合鍵をもらえることになっている。それは、人気があってなかなか恋人と二人きりになれなかった数代前の生徒会長が、学園内で恋人とのんびり過ごせる場所が欲しいと提案したことからこの温室は役持ちの恋人たちの憩いの場となっていたのだ。

「上村…、」
「…こぐちゃん。俺ね、今回の事に関してはこぐちゃんが間違ってると思う」

小暮の目の前までやってきた上村は、いきなり小暮を前に本題を切り出した。まっすぐ目を見て自分を責める上村に、小暮が泣きそうに眉を寄せる。

「確かに、無理やり思いださせるのはいけないかもしれない。でもね、だからってこぐちゃんが何もしないでただ会長があいつにべたべたくっついてんのを指咥えてみてるのは違うと思う。」
「でも、…」
「ねえ、こぐちゃん」

言葉に詰まり、俯く小暮の肩に上村がそっと両手を乗せる。ぐ、と力を入れて握られる肩から、優しい温もりが広がり小暮を包む。

「一回でもいいから、『思いだして』って、叫んでみたら?『本当の恋人は、自分だ』って会長に訴えてみたら?もしかしたら、それでも思いださないかもしれない。またひどい言葉を言われちゃうかもしれない。でもね、何も言わないで恋人を勘違いしたままの会長を黙って見てるんじゃ、逃げてるだけじゃん。どっちにしろ、傷つくんだ。それなら、何もしないで傷つくよりは何かして傷ついた方がよくない?」
「…!」

まっすぐに自分を見つめる目が、頑張れと訴えている。自分を応援してくれている。嫌われ者だったはずの自分を、後押ししてくれる人がいる。その事実に、言葉に、小暮の心が大きくざわめく。


本当は、叫びたかった。間違えないで。本当の自分を見つけて。


でも、テツヤの言葉に心が揺れた。綾小路に何かあったら。

そう思いながら、本当は決定的に決別されるのが怖かったのも事実だ。
上村の言うとおりだ。何もしないでも、傷つくなら。もがいて、あがいて、やれるだけやってもいいんじゃないか。

じわり、と涙が浮かんだ目をごしごしと擦り、小暮はこくりと力強く頷いた。

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