×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




5

面会時間はとっくの昔に過ぎている。だけど俺は二見さんに話を聞いて、どうしてもすぐに会わなけりゃと思ったんだ。

夜間出入り口から、紫音ちゃんの病室へとまっすぐに向かう。たぶん、まだ起きているはず。

病室の入り口に写る小さな明かりを確認して、小さくノックをして扉をあける。

看護士さんが来たと思っていたのだろう、ベッドから上半身を上げて俺を見て驚いた顔をした。

「先輩、どうしたの?」

不思議そうに首を傾げる紫音ちゃんのそばに近づいて、そっとその頬に触れる。

「先輩…?」
「ごめんね、紫音ちゃん」

頬をなでながら謝罪をすると、わけがわからないと怪訝な顔をした。

「紫音ちゃんはほんとに…、優しくて、傷つきやすくて、純粋すぎるよ。俺が、紫音ちゃんを否定するはずないでしょ?」
「ひてい?」

記憶を無くしている君に、こんなことを言っても届かないだろう。なんのことかわからないだろう。だけど、どうしても言わずにはいられなかった。

「紫音ちゃん。俺はね、君との出会いや思い出全て、とても大切な宝物だと思ってる。あんな出会い方じゃなければ、君とは会えなかった。俺が言ったのは、あの時のバカな自分を消すことができたならってことだったんだよ。大事な君を悲しませてた、傷つけてたあの頃の自分を思い出すたびすごく自己嫌悪に陥ってて。どうして…どうして初めからきちんと君を見てあげなかったんだろうって、愛してあげなかったんだろうっていう俺自身への言葉だったんだ。」
「何言ってるの?先輩、わかんない。そんなのどうでもいいよ。ね、せんぱい、一緒に寝ようよ。先輩がいてくれればいいんだあ。俺の世界には、先輩だけ…」
「紫音ちゃん!」

にこりと笑って腕を伸ばす紫音ちゃんを抱きしめる。本来なら、言われて飛び上るほどに嬉しい言葉を、言わせたくなくて。

「せんぱい、どうして?どうしてそんなに悲しそうなの?だって、先輩は、それがよかったんでしょう?なのに違うの?この俺もダメなの?じゃあどんな紫音ならいいの?」
「紫音ちゃん」
「わかんない、わかんない。俺は、俺はだれ?どうすれば、、どうして、俺は、…どこで、なにをして、…覚えてない…?覚えてる…?わかんない、わかんない、わか…」
「紫音!」
「んぅ…!」

腕をだらんと下げて天井を虚ろな目で見つめながらぶつぶつと独り言を繰り返す紫音ちゃんの名を呼び、深く口づけてやる。その口から出る自分を呪うかのような言葉を全部吸い尽くすように深く深く口づけてやると、虚ろだったその目が弱弱しい光を携えて口づける俺を見た。だらりと下げていた手をおずおずとあげて俺の背中に回されたのを確認して、唇を解放してやると紫音ちゃんは涙を浮かべ困惑した目でじっと俺を見た。

「…先輩…?いいの?だって、先輩は…」

その言葉に、記憶が戻りかけてるんだと確信した俺は涙を浮かべる紫音ちゃんの顔を優しく撫でてやった。

「愛してる、紫音。どんな君でも、君は俺の大事な子ネコちゃんだよ。君は君だ。代わりなんていない。」
「…せんぱ…、晴海、晴海先輩…っ!ごめ、…っ、ごめんなさい…!先輩、俺も好きだよぅ…!う、うえええん…!」

確実に、今までとは違う意思を持った腕で俺にしがみついて泣きだした紫音ちゃんに、おかえり、と優しく声をかけて背中をなだめるように撫で続けた。

[ 13/50 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]

top