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7

「おーい、木村紫音!き、今日、俺の部屋に来ない?珍しいお菓子が手に入ってさ。」


―――ギラリ。


「ひっ!い、いや、そんな、下心なんてなくてですね。ただ、部屋に遊びに…」


ギラッ!


「ひいっ!す、すみません!あわよくばイイ事できればと思ってましたああ!」

顔を青くして慌てて逃げ出す男子生徒をきょとんとして見送る。あれは誰だったろうか。確か隣のクラスのサッカー少年だったろうか。そう言えば最近よくスキンシップと共に話しかけてきてくれてたっけ。

「こぉら、紫音ちゃん。だめでしょー?もう、油断も隙もないんだから。」

そう言って後ろからぎゅうぎゅうと抱きしめながら『めっ』、と小さい子をたしなめるように怒る晴海に、紫音は首を傾げる。

「なにがだめなの?一緒にお菓子食べようって言ってくれただけだよ?あ、先輩も行きたかった?」
「あのねえ、紫音ちゃん…」

きょとんとする紫音に、がくりと晴海がうなだれる。

『クラスでたくさんお友達ができたんだよ!』

きらきらと目を輝かせながら報告してくれた紫音に、よかったね、と頭をなでながら晴海は内心気が気ではなかった。
というのも、紫音は梨音の守護者である時には梨音に向けられる邪なものにはひどく勘が鋭かったくせに、紫音は自分のこととなるとさっぱりなのだ。
晴海の心配通り、紫音が自分を偽らなくなったその時から、さっきのような輩が後を絶たない。
当の紫音は今まで梨音に向けられていたそれを、自分に対してはただの友愛だとしか受け取らない。

今だって、晴海がトイレに行くのに側を離れたほんの少しの間に声をかけられた。まあ、紫音が返事をするよりも先にトイレから出てきた晴海が後ろから睨むとすぐに飛んで逃げたわけだが。

「うん、お友達がたくさんなのはいいけどね。俺以外の奴と二人きりでどっか行ったり、そいつのお部屋に呼ばれたからって行ったりするのはやめてね。」

ヤキモチ妬いちゃうからさ、と言いながらちゅ、とほっぺにキスをするととたんに顔を真っ赤にしてこくんと頷く。
それを見て顔を赤くする周りの奴らを、また晴海は威嚇するのだった。


昼休み、いつものように屋上でお弁当を広げる。だが、そこには、四人だけではない。redの仲間が、同じように楽しそうに談笑しながらそこにいる。ひなたの中で仲良くじゃれあう双子に、皆が目を細めて笑う。

克也と晴海はそんな二人を見ながらこんな穏やかな日を過ごす自分たちがなんだかくすぐったくて仕方がない。
喧嘩ばかりに明け暮れていた自分たちが、こんなに誰かに対して優しい心を向けたことがあるだろうか。

「先輩、何見てるの?」

いつのまに側に来たのか、紫音と梨音が壁により掛かり携帯を眺めていた二人の目の前でちょこんと座り首を傾げていた。

「んー?俺のかわいい子猫ちゃんの写真を見てたんだよ〜。」
「あ、ああっ!」

ほら、と画面を紫音に向けると、映し出された画像に紫音が驚きの声を上げる。

猫の着ぐるみをきて、枕にしがみつく紫音。

「り、りーちゃん!このお写真、先輩にあげたの!?」
「え〜?だって、しーちゃんのお写真くれたらジャンボポッキーくれるって言ってくれたんだもん。かわいいしいいじゃない。」

ペロリと舌を出す梨音を真っ赤な顔で睨んでから、紫音は晴海の差し出した携帯に手を伸ばす。

「あー!だめだめ!なにすんの!」
「だ、だってぇ!やだあ、やだよぅ!恥ずかしいから見ないでよー!」

ゆでだこのようになりながら、必死に晴海から携帯を奪おうとする紫音に、晴海は目尻が下がりっぱなしだ。

「ははっ、なにやってんだあいつら。なあ、梨音。」
「…先輩も、何してるの?携帯見て、どうしたの?」
「え?いや、あれだ。俺も、俺のかわいいウサギちゃんを見てたんだぜ?」

紫音と同じような反応をして恥ずかしがる可愛らしい梨音を想像してにやにやと笑いながら携帯を梨音に向ける。

「…梨音?」

だが、梨音は克也が思っていたのとは全く違う反応をして見せた。しゅんと悲しそうに眉を寄せ、うるりとした目で克也を見上げたのだ。

―――――これはクル!

「ど、どうした、梨音?」

ばくばくと欲望に高鳴る心臓をばれないように必死に平静を装って梨音に問いかける。

「…先輩は、本物の僕じゃなくてそんな画面の僕でいいんだ?」
「!」
「いいもん。先輩はもう僕の事見ちゃダメなんだから。僕もかっちゃんと遊ぶもん。」
「りりりり、梨音!かっちゃんって誰だ!!!」
「かっちゃんはかっちゃんだもん」
「梨音んんんん!!」

ぷくりとふくれたまますたすたと歩いて克也から離れようとする梨音を世にも情けない顔をして必死に克也が追いかける。

「…あれ、梨音ちゃんの仕返しなんだぜ?知ってるか?」
「え?なにやらかしたの総長」
「梨音ちゃんに内緒で合コンに行ったらしい。数合わせで二見さんに無理やり行かされたらしいんだけど、二見さんがぽろっと梨音ちゃんにばらしたらしくて…『お仕置きするんだもん』ってぷくーってふくれてたぜ、梨音ちゃん。」
「…わざとだな、二見さん。あの人愉快犯なとこあるからなあ。総長は梨音ちゃんにばれてないと思ってんだな。ご愁傷様…」

なむ、と両手を合わせながら、総長、実は本命にはヘタレだったんだなあ…とチームの皆は同情のまなざしを向けた。

必死に自分を追いかける克也を振り向かずに梨音はその口元にくすりと笑みを浮かべる。

克也先輩。もっと、もっと僕に夢中になって。画面の僕なんかじゃなくて、僕を追いかけて。
かっちゃんが先輩のくれたウサギのぬいぐるみなんだってことは、もう少しだけ内緒ね。

二者二様、目の前で繰り広げられる光景にチームの皆がそれは楽しそうに笑った。

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