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5

梨音が退院の日、晴海は紫音と共に梨音を病院まで迎えに来ていた。克也には退院の日は内緒にしてある。それは梨音が望んだことだった。

『克也先輩には、自分から会いに行きたい。』

そう言う梨音の思いをくんで、晴海は克也に一つ嘘をついた。そして、自分のチームの皆に今日の放課後には絶対に屋上にはいかないようにと指示をする。学校について、屋上の扉前まで紫音と二人で梨音を見送る。梨音の手には鉢植えが一つ。退院と同時に、病院の近くの花屋で梨音が買った。

白い、胡蝶蘭。

扉を開けて歩き出す梨音を、ほんの少し隙間を開けて紫音と二人こっそりと覗き込む。気が付けば、晴海たちの後ろにはいつのまにやらチームの奴らが一人また一人と増えて同じように扉の隙間を覗き込んでいた。

克也が涙を流し、梨音を抱きしめた瞬間。わーっと歓声と共に皆がなだれ込む。

「お、おおおお、お前ら、なに、なにを…!」

見たことがないほど顔を真っ赤にしてどもる克也をチームの皆が囲んで騒ぎ立てる。

「おめでとうございます総長!」
「やっと思いが通じたっすねー!見てるこっちがドキドキしました!」
「いやー、めでてえ!ばんざーい!」
「うるせー!バカやろー!」

照れ隠しだろうか、顔を真っ赤にしながらチームの奴らを追いかけ回す克也を晴海と紫音と梨音がくすくすと笑いながら見つめる。

「あはは…、…っ、ぐす…。」

鼻をすする音が聞こえてふと隣を見ると、紫音がポロポロと涙をこぼしていた。驚いた晴海が焦りながら紫音の肩を抱き、顔をのぞき込む。

「…。りーちゃん、滝内先輩と、仲良しになれたんだよね。…もう、りーちゃんのそばにいるのは、俺じゃ、ないんだよね…。これからは、滝内先輩が、りーちゃんのそばにいるんだよね。」

梨音が、克也と結ばれたのはすごく嬉しい。でも、やっぱり少しさみしい。
嬉しいのが半分と、寂しいのが半分。

そう呟くと、晴海は優しく微笑んで紫音を強く抱き寄せた。

「紫音ちゃん、違うよ。これからは、紫音ちゃんと、克也が梨音ちゃんのそばにいるんだよ。梨音ちゃんが大好きで守りたいと思う人が増えたんだ。そしてもちろん、紫音ちゃんには俺が。なくなるんじゃないよ。大好きが増えていくんだと思うと嬉しくない?」
「…大好きが、増えてく…」

晴海の言葉に、紫音が涙を止めて克也と梨音をじっと見つめる。

本当に、幸せそうに楽しそうに笑う梨音。

「俺も?」
「うん?」
「俺も、あんな顔してる?」

梨音を指差して晴海に問いかける紫音に、にこりと微笑む。

「もちろん!紫音ちゃんだけじゃないよ。ほら、克也も。俺だって。大好きが増えた分、笑ってるはずだよ。」
「…そっか。」
「うぉーい、木村紫音!なに泣いてんだ、お兄ちゃんが結ばれて嬉し泣きか!?」
「笑え笑え!ほら、お前の大好きなチョコやっから!」

克也と梨音をはやし立てていた仲間たちが、紫音と晴海の元へもやってきて笑顔で騒ぎだす。
紫音と晴海は一度お互いに顔を見合わせ、手を取り合って梨音と克也の元へ向かった。

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